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12月22日

「まずは学校を好きになって欲しいですね。そうすれば、成績も上がるし、将来も見えてくるので」

取材日:12月22日
インタビュイー:理科(化学) 市原貴紀先生
インタビュアー:2006年度栄東高校卒業生 教育図鑑編集部 田口亮太

         「市原貴紀先生」

田口:先生になった動機を教えてください。

市原先生:私は中学・高校時代に決して勉強が出来る生徒ではなかったんです。はっきり言うと落ちこぼれに近かった。特に理数系が弱くて、授業を聞いてもさっぱり分からないところがありました。それで、自分のような子どもたちも多いんじゃないかと思ったんですね。自分が理解するのに苦しんだ経験を、同じ目線からスタートしたときにどう言えば理解できるのか。それを作り上げていこうと思ったのが一番のきっかけです。

田口:いつごろそう思ったんですか?

市原先生:高校に入ってからです。中学校の時は部活動とかに追われる日々で、この仕事をやるなんて全然考えてなかったです。高校に入って、授業についていけてないなってふと感じた時が、最初のきっかけでした。

田口:思い立った頃には、理数系は得意科目に変わってましたか?

市原先生:いやあ、時間はかかりましたね。今もその時のことを引きずっている部分もあるので。あの時にちゃんとやっておけばとか、最初につまずいたところに戻れたらとか。この歳になっても思うので、そこを生徒たちには伝えています。今が大事だと。

田口:これまでに習った、尊敬できる先生を具体的に教えてください。

市原先生:習った先生じゃなくてもいいですか?

田口:はい。

市原先生:栄東ってそんなに歴史のある学校じゃないですよね。進学校としてスタートしたけど、話を聞く限りではまず募集しても生徒が集まらない。私は栄東が2校目ですが、学校が出来上がって進学実績も出てきた頃に赴任しているので、以前の苦労を知らないんです。最初からこの学校で働いてきて、苦しいところから努力して一歩ずつ進んで、ここまで作り上げてきている先生方はやっぱり尊敬します。途中で上手くいかないこともあったと思うんですね。それでも前に進んでいこう、苦しい時ほど前進しようという方針でやってこられた歴史を聞いていますので、立ち上げの頃から携わっていて今もなお働いている先生方を一番尊敬しています。

田口:立ち上げ当時からの先生は今何人くらいいますか?

市原先生:20~30人くらいですかね。今学校を支えてくれる管理職の先生方はその頃からなので、いろいろと苦労話も聞くし、やっぱり我々に無いものを持っています。

田口:教師になった直後と現在とで、先生ご自身で変わったところはありますか?

市原先生:先生になった直後は生徒と年齢も近いですから、距離を掴みやすい。それに生徒に慕われるというか好かれやすい、お兄さん的存在の年齢だったと思います。でもこちらは歳を取るけど、生徒たちの年齢は変わらない。どんどん差が開いて、最近では保護者との年齢の方が近くなってきた。年齢を重ねて経験すれば立ち位置も変わるし、生徒との付き合い方が大きく変わりました。最初は生徒の目線に立って要望を聞き入れて、成長を止めてしまっていたところもあると思うんですけど、最近では冷静さが入ってきました。

田口:話が戻りますが、他校から栄東に来た理由はなんですか?

市原先生:埼玉って公立がすごく強い県なんです。その中で私立の進学校として伸びようとしているところに大きく惹かれました。フロンティア・スピリッツじゃないですけども、普通であれば無謀な挑戦に思えるところに、臆せずに向かっていく姿に惹かれた部分が大きいです。

田口:先生ご自身がベンチャー・スピリットを持っていて、合っていると。

市原先生:そうですね。合っていると思います。ただ最初からやる勇気はないかなと思います。だから尊敬しますよね。長く働いている先生方を。

田口:先生の好きな本、影響を受けた本教えてください。

市原先生:今は学校のスタイルに合った本を読むようになってきていて、最近だと本田宗一郎の「100の言葉」をよく読み返しています。本田宗一郎もホンダを立ち上げてから苦しい時期があって、何回か倒産しそうになっている。そういう時ほどF1に参加したりとか、新しい事をやったんですね。それが本校のスタイルと全く同じで、一番苦しい時期に東大クラスを立ち上げたりとか。苦しいからこそ、その場しのぎではなくて前に打って出る。そういう所に惹かれました。

「本田宗一郎 100の言葉」別冊宝島編集部編

田口:大学に行くとどんな良い事があるか、と生徒から質問されたらどう答えますか?

市原先生:中学や高校は、私立でもあまり遠くからは通わないので、ある種同じような土地柄で同じような考え方、公立の中学ならほんとに地元の生徒たちが集まってきます。でも大学はそうではない。いろんな経験をしている人、一浪二浪して入る人たちもいて年齢も様々、生まれ育った環境も様々。そういう人たちとただ単純に会話をするだけでも、刺激になることは絶対にあると。とにかく大学に行って人と触れ合うこと。大学は、自分と違う人たちと触れ合う機会としてはすごくいいと思います。

大学入試に関しては、自分が思うところよりも上を目指しなさいと言っています。自分よりも上の人たちがいるという刺激はすごく大きいことで、それは自分がトップであることよりも良い事だと思っています。自分に無いものを持っている人たちがいるから、自分を成長させる上ではプラスになることばかり、という話をしています。

田口:栄東中学に入る生徒って、ほとんど大学に進学しますよね。大学に行きたくないっていう生徒はいるんですか。

市原先生:中にはいますよ。

田口:どう対応されるんですか?

市原先生:本人やご家庭と話をして、ほんとにそれが自分のやりたいことなのかを詰めます。中には安易に、勉強したくないからとか受験が辛いからと言う生徒もいるので、全く否定はせずに、本当に将来やりたいことなのか、誇りを持てる仕事なのかという投げかけをする。それで絶対に昔からやりたかったとか、こういう理由があってやりたいとちゃんと語れるのであれば、ゴーサインを私は出してます。

田口:中高一貫校にあって一般の中学校にないものは何ですか?

市原先生:一つは誰もが答えると思うんですけど、高校受験がないので内容的な先取りができること。もう一つは逆に、一つのことをじっくり煮詰めることができて、時間を倍以上取れるということ。

たとえば私は理科担当ですけど、実験せずに板書で済ませてしまうような内容でも、実際に実験してみようかとか、植物を取ってきて顕微鏡で見てみようかという、体験を増やすことができる。高校受験がない分、時間をかけることができる。実体験させてあげられる数は、一般の中学校以上だと思います。3年間でぶつ切りにせずに、繋げて考えられますから。

中学校の教科書を見ていると、これをやって次にここの内容に発展させないのはもったいないなと思うことがあります。本校では高校の教員が中学も教えたりするので、じゃあこれは今先にやってしまおうという部分を、無理なく無駄なく教えることが出来る。内容自体を深めていけるというのはすごくあります。

編集部:理科ですと具体的にどういった部分ですか?

市原先生:中学1年生で元素記号をやってイオンの話とかが出てくるんですが、それで終わっちゃって化学結合には触れないんですよ、中学の教科書って。でもそこは一気にやった方が、世の中の物質はこんなふうに成り立っているんだという、生徒の理解度は上がる。分からなくてもいいんです。ある程度説明してあげた方が次につながる学習ができますし、より興味を持ってもらえる。

あとは高校と繋がっていると、中学で説明が難しいところを高校の物理の専門家が教えに来てくれたりします。だから理科では1つの科目だけではなくて、科目間の繋がりを教えられる。一貫校ではそれができると思います。

編集部:興味を繋いでいけて、深くやりたい生徒はさらに進んでいけるわけですね。

市原先生:そうですね。高校受験があると一回切って、受験勉強をやらないといけない。その期間にじっくりと、学問として煮詰めていけるのは素晴らしいですよね。

田口:貴校にあって他の私立にないものといったらなんですか?

市原先生:なんでしょうね。他校に比べて、生徒同士の距離や先生と生徒の距離は近いことでしょうか。本校はコミュニケーションを、まず挨拶からスタートさせるという文化があります。知っている先生も知らない先生も、知っている先輩も知らない先輩も友達も関係なく挨拶するんです。そうするとたとえば質問事項があった時に、普通は職員室に行って何々先生いますかと自分が習っている先生を指名して、いないとそのまま教室に戻っちゃう。質問も解決しない。でも本校は距離が近いですから、「失礼します。何年何組の何々ですが、数学の先生いますか、英語の先生いますか」と言う。すると職員室にいる英語や数学の教員は、その生徒を知らなくても質問対応するんです。だから分からなかったことをその場で解決できる。

編集部:それは先生方でもそうしようと決められるんですか?

市原先生:そうですね。中学1年の入学した時に、まず挨拶をしましょうと。今しきりに世の中ではコミュニケーション能力云々という話が出ますけど、英語でも日本語でもやっぱり最初に挨拶からスタートしないと、なかなか会話は弾んでいかない。最初の挨拶が気持ちよく出来ると、そのあとのコミュニケーションは取りやすくなると思うんです。だからまあ当たり前のことなんですけど、担任であろうが教科担当であろうが、そこは重要視しています。

編集部:職員室で「英語の先生はいますか」と言われたときに、全然知らない生徒にも対応するのも決まり事があるのですか?

市原先生:もう、僕が入ってきた頃は自然とそうしていましたね。「英語の先生いますか」と言って校長が出ていくことがありますし、校長であろうが教頭であろうが質問対応には出ています。

編集部:先生が以前お勤めになられたところでは、そういうことはなかった?

市原先生:やっぱり生徒たちが名前で指名してきますし、いないと帰ってしまうのが自然ですよね。私もそれに対して全然違和感は感じなかったです。だから栄東に来た当初は、逆に違和感を感じました。こういう質問の仕方で来るんだと。でも今は自然ですね。

田口:中学に合格した生徒に、勉強以外で一生懸命取り組んで欲しいことはどんなことですか?

市原先生:まずは学校を好きになって欲しいですね。持っているポテンシャルが高い生徒でも、学校が嫌いだと伸ばしきれないので。学校の環境を好きになることがすべてのスタートだと思っています。本校は特に第一志望で入ってくれる生徒ばかりではないので、第二希望でも第三希望でも、せっかく縁があって入ってくれたのだから、学校を好きになってほしい。そして一生懸命に行事や部活動に取り組んでいければ、これは必ず伸びていきます。

一生懸命やっていくうちに、好きなものが見つかる。見つかってひたむきに打ち込んでいけば、学校が好きになる。学校を好きになってくれれば、成績も上がるし将来も見えてくる。だからどんな経緯で入ってくるか分からないけれど、好きになって欲しいです。

ご家族の方にも好きになって欲しいので綿密に連絡を取りますし、学校に来ていただく機会も多いです。生徒が学校を好きでも、親御さんが嫌いだったり、不信感を持っていたりするときっと生徒によくない影響がありますよね。親御さんにとってもいい事がいっぱいあるので、頻繁に学校に足を運んで好きなものを見つけて欲しい。親子揃って学校を好きになってくれれば良いなと思っています。

編集部:御校に合う生徒と合わない生徒がいるのではと思いますが、いかがですか?

市原先生:本校は開校時は男子校としてスタートしていますが、今は共学です。共学で男女が一緒の空間にいる。それから第一志望の生徒もそれ以外の生徒も入ってくる。埼玉にありながら東京からも神奈川からも来ている、栃木や群馬からも来ている。多種多様な、ハイブリッドな学校なんです。元からそうなので、何が合うか合わないかもごっちゃになっているところがあります。それは学校側も理解しています。

それで校長が一貫して言っているのが、何でもかまわないから学校を好きになってもらって、「居甲斐(いがい)」のある学校を目指しなさいということ。どんな生徒にも「居甲斐」がある学校。それが学校の核にあります。居る甲斐と書いて「居甲斐」。学校にいる甲斐があるという意味です。

もとがバラバラの状況から入って来ていますので、どんな生徒が来ても必ず何か一つ、これがあるから栄東に行きたいと思えるものを探すようにしています。もちろんそれでも合わない生徒もいると思います。それでも、生徒たちにいろんな「居甲斐=学校にいる甲斐」を見つけてもらい、一緒に寄り添って引き上げながら進んで行くので、みんな前を向いているイメージが強いです。

先ほどベンチャースピリットという話が出ましたが、ベンチャーではなく公務員向きの安定志向の生徒ももちろんいるので、入学して安定した中で、安定のちょっと上を目指させるといった工夫をしています。だから学校全体としてはベンチャーのようなスタイルですけども、その中で個々を見ていくスタイルも同時にある。どちらかといえば後者のイメージの方が強いです。もうほんとに徹底していますし、生徒にも保護者会でも説明会でも話します。「居甲斐」を見つけてくださいって。

田口:生徒からの相談で印象的な内容があったら教えてください。

市原先生:う〜ん。

編集部:先ほど、御校は自分が授業で教えていない生徒からの質問でも対応するとおっしゃっていましたよね。その生徒がどこの学年でとか、背景まで知らない中で相談を受けるわけですが、そういった時になにかないですか?珍しいことだなと私は思うので。

市原先生:その流れでありがちなのは、担任ではないけど進路の相談を受けることですね。例えば、化学に関しての質問に来た生徒から、「将来医学部に行きたいんですけど、お母さんは違うところを言っている、どうしたら説得できますか」とか、その生徒のバックグラウンドを全く知らない時に質問されることはありますね。

編集部:そういうときはどう答えるんですか?

市原先生:話はしますけども、即答はしないです。やっぱり背景を知らずに話すのは良くないですし、担任とその生徒の人間関係が大事ですから。だから、まず担任の先生に相談しましょうと。あなたを一番見てくれているのは担任だから、という形にします。教科の質問はもちろん受けますけど、ほんとに進路を決定してしまうような質問を受けた時は、その生徒を一番見ている先生たちに託すところは踏み越えないですね。学校全体がチームでやっていますから、そこの信頼関係が築けないとうまくいかなくなるんです。個人プレーではなくチームであることを意識しています。

「化学オリジナルプリント」
「卒業生が作った水分子のキャラクター」

田口:どんな教材を使って授業をしていますか?

市原先生:これは化学のオリジナルプリントなんですけど、私は自分が中高生のときに化学で苦しんだので、楽しく勉強しようと「化学」を「化楽」に変えています。「必笑」も、笑ってしまうぐらい楽しんでやろうよと。楽しいものであって、苦しいものではないと生徒によく話すんです。最初からつまらないと思ったり、人生の何に役に立つのかという目線で勉強すると、楽ではなくて「化が苦」っていう苦しみに変わってしまう、と実体験を告白しながら。(笑)

このプリントは私も含め化学科のチームで作ったんですけど、毎年更新しています。卒業生もチームの一員として携わってくれて、水分子が元になったキャラクターを作ってくれたり、内容もこうしたらもっといいですよって言ってくれたりします。生徒の経験を入れてくれると、我々が見えなかったところが見えてくる。自分たちは分かりやすいと思って教えているのに、生徒たちはこっちがいいと思っていた、というのが反映されています。

田口:生徒の観察を日々どのようにしていますか?

市原先生:一人の教員だけではなくて、複数の目で見るように心がけています。駅から本校までの通学路の、大体10m間隔ぐらいに教員が朝と帰りに立つんです。最初は安全確保のためでしたけど、特に中学生くらいになると、人間関係とかその日のコンディションとかが一番出やすいのが、朝と帰りの素の顔の時なんですね。教室に入ると、問題や悩みを抱えている生徒たちも顔を繕うことが出来るので、一番素の表情が見れるところで観察するようにしています。

ですからたとえば職員室に戻ると、通学路に立っていた先生たちが、今日何々君暗い顔していたけれど、どうなのって話してくれたりする。それで面接をして何か見つかることもあります。

田口:なるほど。

市原先生:はい。あとは給食ですね。人間関係は食事をしている時にすごく出るんです。グループで食事をしている時に一人浮かない顔をしているとか、食欲が落ちているとか、そういうところも見逃さないように注意しています。

それからやっぱりご家庭の協力無しには成り立たないので、三者面談の時にお子さんがいないところで親御さんから話を聞いたりもする。担任、他の教員、保護者の方々がセットというか、ここでもチームを組んで生徒一人を見ている感じです。

田口:いじめがあった時どう対応しますか?

市原先生:いじめに関しては、ことが起こってからでは絶対に遅いので、起こる前から対処の仕方を考えながらやっています。まず入学時に、子どものことで不安なことがあったら何でも言ってくださいと親御さんに伝える。担任としては、もう絶対にいじめは許さないという目線で最初のホームルームをスタートさせる。起こった初期段階にはもう対応が出来るような形で、起こる前から動いています。でないとやっぱり遅れてしまうので。

編集部:最初のホームルームというのは学年の最初という意味ですか?

市原先生:はい。まあ入学したてだと生徒も面喰らってしまうので、オリエンテーションが終わった頃に折を見て言います。ことが起こってから対処するのだと絶対に上手くいかないですから、「絶対にダメなことである」と、「絶対に学校も許しません」というスタンスを最初に伝えておくことが大事だと思います。

ただ絶対にないってことはなくて、最近ではSNSを中心としたいじめとか、もうほんとにあることなんですね。その時には先ほども言ったように、小さな変化を見逃さないように複数の目で見る。

今、私の所属している中学1年では、完全に学年主任を核としたチームで動いています。全体で共有していないと、たとえば他のクラスで起こったことについて、後になって自分のクラスにも被害者がいたとわかった場合、最初から説明していると対応が遅れてしまう。全体で共有していれば、何かが発展してしまった時でも対応が早いし、情報も入りやすくて初期段階を発見しやすい。だから栄東ではもう徹底してチームで動いています。他の学校でもいろいろ考えているんじゃないかな、この辺は。

編集部:文科省がいじめについてもガイドライン作って、そこはみなさんやっぱりやられています。それプラスアルファでいろいろなこと、特に予兆をどう把握するかについてはいろんな工夫があるようです。

市原先生:登下校時とか給食時とか、ほんとに分かりやすいんですよ。表には出なくても、食欲が落ちるとかがバロメーターになるのは大人でも同じですよね。給食は必ず教員が一緒に食べますので、そこで初期段階が発見されることはあります。

それと生徒たちは、いじめを報告すると自分がいじめられてしまうという心配がすごくある。でも学校側が絶対に許さない、担任が許さないと言っていると、割と伝えやすくなると思うので、情報が入りやすい部分があるかもしれないです。

田口:落ちこぼれた生徒にはどう対応しますか?先生方のチームで対応する仕組みはありますか?

市原先生:落ちこぼれてしまいそうな生徒に対して、栄東の先生はほんとにしつこいです。どこまでも追いかけていって妥協はしないですね。たとえば40点という基準を設けた時に、42点だったとしても徹底的に追いかけていく。

奥田先生:田口さんの在校時にもあったはずですが、英語とか古文のテストとか覚えてないですか?

田口:全然記憶にないです。

奥田先生:受からないと放課後ずっと残ったりとかしていたと思います。

田口:追試があったのは記憶しています。そこに補習もあるということですか。

奥田先生:補習というより、受かるまでテストが繰り返される。

田口:あっ、「エンドレステスト」。思いだしました。

市原先生:そんな感じなんですよ。それほどしつこいんです。そこはやっぱり原始的ですね。定期試験までほったらかしておいて、点が取れない、だめじゃないかっていうのは残酷な話なので、小テストで区切ってその都度その都度受かるまでしつこくしつこくやっていきます。生徒たちは最初は嫌がるけども、そこでほったらかしにされると結局次の試験や入試までも上手くいかなくなる。であれば恨まれてでも細かく刻んだところをしつこく追いかける。小さいところをこぼしていかないという繰り返しです。スマートじゃないですよね。どうしても原始的になります。でもその積み重ねが落ちこぼれないようにする作業であると思います。

編集部:小テストはどのくらいの期間であるんですか?

市原先生:かなり短いですよ。毎日やっているところもあるので。

編集部:教科ごとに違うという形ですか。毎日もあれば1,2週間に1回みたいなところもあると。

市原先生:はい。

田口:多いのは英語とかですか?

市原先生:英語と数学は多いですね。

田口:中学生からやっているんですか?

市原先生:はい。中1は最初はやっぱり「きつい」って言います。でも、先生が毎回毎回受かるまで貼りついて付き合ってくれるし、答案に対してどこがいけないとか、この考え方のここを直せばというヒントを与えて、答えを出させるところまでやってくれる。コメントを全部書いてくれるんです。

それを担任がホームルームで返すんですけど、コメントがきつい言葉だったり励ましだったりいろいろで、その生徒の個人的な性格を踏まえて変えています。私が担任として見ていて、誉めて伸ばすタイプだなっていう生徒に対しては、数学の先生ももう少しもう一問頑張れとか励ますようなこと書いている。甘えさせたら逃げるなっていう生徒に対しては、けっこうきついことを書いていたりする。それはすごくありがたいですよね。

実際に辛いながらも頑張ってついてきた生徒は成績も上がってくるし、長い目で見たらやっぱり、こぼれてから拾う教育ではなくてこぼさない教育、最初からこぼさない伏線を引いておく教育が大事なのだとすごく感じています。

編集部:化学の先生だと何人くらい、何クラスくらい持たれるんですか?

市原先生:私は今、4クラス持っています。

編集部:じゃあコメント書くのも大変ですね。

市原先生:そうですね。でも英語の課題が多いとか小テストをやっている時には理科はやらなかったり、期間が空いて生徒が遊んじゃうなと思った時に理科の課題を入れたり、上手くずらしながらやっています。

教科すべてをそれぞれのスタンスでやってしまうと生徒たちは辛くなりますが、教科間の繋がりがあると無駄なく出来るんです。1日に3つまとめてやるのではなく3日間で3つやる形にすれば、生徒たちは1個1個集中して出来る。横の繋がりを持って組み立てていくと、絶対量を減らさずに上手くいきます。だから職員室では「今日英語のテスト出ている?」とか、「明日英語やる・やらない?」「じゃあ理科やります」みたいな会話がなされています。

編集部:なるほど。

市原先生:あと、小テストは通知表に入れて生徒に戻しているんです。親御さんにも見てもらいたいので。親御さんでも、子供たちにアドバイスがしたいっていう方がいるんですね。それで実際に数学のプリントなんかを挟んでおくと、自分の子はここが出来てここが出来ていないのねというように分かるので。

あとはさっき言ったように、学校を好きになってもらいたい、安心感を持っていてもらいたいんです。だから先生たちがここまで面倒見てくれているなら塾に行かせる必要はないかなとか、安心して通わせられるなという安心感にも繋がっていくと思っています。

田口:逆に長所がある生徒にはどう対応されますか?

市原先生:長所は伸ばします。長所を否定するようなことをしてしまうと、全体のバランスが崩れてしまう。だから勉強だけで捉えるとなかなか難しい生徒もいます。

先ほどの話の続きなんですけど、学校を好きになると目に見えていろんなものが伸びてきますね。体育祭で1位になった。部活で活躍した。ホームルームのときに「何々君は部活で今回表彰されるよ」みたいな話をすると、それをきっかけにもっといろいろ頑張ろうと成績が上がることもあります。

本人にも長所が見当たらない場合は、探す。何か一つ、ほんとに小さなことでもいいから探そうと。その何かがどこで評価されるか分からないし、それが自分の将来の夢に繋がることもありますので。

長所を生かす話をたとえると、好きなものだけ食べていても体は強くならない。好きなものを食べたい、好きなことをやりたいなら、嫌いな事もちょっと頑張ってみようか、食わず嫌いじゃなくて食べてみようかという話になる。そうすると、やりたいことのためにはこれもやらなきゃ、という目線に変わっていきます。

大学入試は科目が多いけど、専門にするのはその中のたった一つ。それ以外は大体嫌いなんですよ。でも好きなことがあるからこそ、嫌いなことでもやっていけるわけなので、そこはほんとうに小さいことでも伸ばしていけたらと思っています。

田口:先生は人気があると思いますか?

市原先生:ないんじゃないですかね。

奥田先生:いやけっこうあると思いますよ。生徒に後ろから突つかれたり、いろいろされてますから。(笑)

田口:人気がある先生ってどんな先生ですか?

市原先生:人気のある先生って、逆に嫌われてもいいって思っている先生なんですよね。私たちの仕事って芸能人とかと違って人気は関係なくて、嫌われるようなことも時には言わないといけない。好かれようと思うと注意も出来なくなります。その時は優しい先生だと言われていても、いざ社会に出た後に、あの時に注意してくれてればこんなに道を外れなかった、となりかねない。

だから嫌われてもいいから伝えるべきことをきっちり伝える、そういう先生が逆に卒業した後に好かれると。私も在校時には生徒に嫌われてもいいと思っています。良い事は良い、悪い事は悪い。そのことがいずれ社会に出た時に分かってくれて、やっぱりあの先生好きだなと思ってもらえればと。だから嫌われていると思いますよ私。けっこうきついこと言ってるし。

田口:学校の好きな点、もっとこうしたらなという点を教えてください。

市原先生:私は非常に学校が好きです。折れない学校、負けない学校なので。何があっても前に進もうとするところはすごく好きですね。止まらないところ、これでよしとせず進むところ。数年前、埼玉県の私立で東大合格者を二桁出している学校がなくて、校長も二桁出せば落ち着くのではという話をして、実際に二桁出したんです。そしたら次の目標はこうだ次の目標はこうだと止まらない。

そこの根本にあるのは、十人が受かっても落ちている生徒もいっぱいいるということです。その生徒たちを全員受からせないと、やっぱり学校としての成功はないんです。全員を希望の大学に入れることを大きな目標として、あとは卒業してから立派になりましたと帰って来てくれる。その報告を受けてはじめて、我々のやってきたことが評価されると思っています。

本校の教員の共通意識としてあるのは、400人いたとしたら必ず400番の順位が付いてしまう生徒がいるということ。その400番の生徒たちがどう夢を実現させていくのか。それがトップの生徒を受からせるよりももっと大事だという考え方です。自分も落ちこぼれていたので、そういう考えを先生方が共有している学校は、すごく好きですね。そこまで見てくれるという。基本的に我々落ちこぼれはほっとかれちゃう。進学実績とかから考えたら特に。そこにきっちりと焦点を当てて目標にしていることは、働いていてすごく好きです。

編集部:大変失礼な事を申し上げますけど、御校に対する私のイメージどちらかというと、トップ層をいい学校に入れて、その他の人たちは・・・というものでした。大変申し訳ないことに。

市原先生:実際に教員の配置を見ても、私が学年主任をやっていたときは一番成績の出てないクラスを担任していました。トップのクラスを持っている教員は若手なんです。300位から400位のクラスは、必ず学年主任とか一番経験のある先生が持っています。大分イメージと違うんじゃないですか?

編集部:それはもうはっきりとシステム的に違うということですね。

市原先生:はい。実際に担任していたクラスでいうと、偏差値32,3の生徒が最後は慶応に受かってリアル・ビリギャルなんて言われています。ホームルームでは君たちが栄東の歴史になるっていうような話もしますし、とにかく「上の連中を喰ってしまえ」みたいな話をします。

田口:反対に直した方が良いところってありますか?

市原先生:何ですかね。直した方が良いところ。

奥田先生:手をかけすぎかなという気はします。外に出て行った時に萎縮したりする怖さはあるかもしれない。技術科の教員に聞くと、マッチで火がつけられない生徒がいたりするそうです。その教員が言うには、「この子たち学力でも付けないと生きていけません」って。(笑)

市原先生:そこを改善する方向には向かっていますね。中一で奥武蔵に行った時に生徒たちは飯盒炊爨でカレーを作るんですけど、やっぱり火を起こせないんですよ。それにちょっとびっくりするのが、爪が切れない生徒とか靴ひもが結べない生徒もいること。その生徒が育ってくるどこかで、そういう手を掛け過ぎたことがあったと思うんです。だから手を離していくタイミングは、いろいろと試しながら少しずつ取り入れています。やっぱり飯盒炊爨なんかやらせると、帰ってきたあとで生徒たちは劇的に変わります。自分のことを自分でやろうと思うようになります。

田口:貴校に進学した生徒は6年後、どのように成長していますか?

市原先生:6年後、間違いなくあきらめの悪い人間になっています。安易にあきらめず、第一志望を譲らない。妥協するな、諦めるなとずっと担任や授業担当から言われるので、数字では第一希望に届かないかなという生徒たちもどんどん挑戦していきます。東大理Ⅲに余裕で受かる生徒ってそうはいないと思うんですが、理Ⅰなら受かるとしても進路は変えずに最後まであきらめない、理Ⅲを譲らない。こっちが大丈夫かと思うところにも挑戦して、勝ち取ってくるんです。

生徒たちの成長は、最後の最後はもうほんとに我々の想像の範囲を超えてきます。だから6年間で挑戦する心が培われて、ずっと永遠のチャレンジャーでいてくれるかなと思います。

編集部:それは全員ですか?

市原先生:割とそうです。

奥田先生:そういう雰囲気は、教員が作ろうっていうより生徒たち同士で作り上げていますよね。

市原先生:もう伝統ですね。あの先輩が受かったから僕も受からないと、っていう。女子は第一志望を妥協してしまうところもある気がするんですけど、男子はあきらめずに受ける生徒が多い。そこに女子も引っ張られていって、最後はほんとにあきらめの悪いクラスになっています。

挑戦し続けるのは大学入試だけじゃないです。なんであれ、自分の実力がこうだからこのぐらいでいいと思っていたら、社会に出てからそれ以上の仕事は出来ないし、大物は絶対に産まれてこない。ダメだと思ってもやってみようという形で、学年のスローガンとしても、「やらずに後悔するなんてありえないでしょ」っていうことを挙げています。今年の高3がまさしくその通りに育っていますね。

成長については、6年後よりも、もっと先の成長を望みたいですね。大学入試は通過点ですから、そこがゴールだと思わずにその先で活躍する、そういう成長を望んでいます。

田口:自分の子どもを勤務されている学校に入れたいと思いますか?

市原先生:これは質問を読んでいて悩んだんですけど、自分がいる時は絶対に嫌ですね。自分の子どもがどこかで叱られていて、ちょっと親御さん呼んでなんて言われても出て行きづらいですし、廊下をすれ違うのも恥ずかしい。まあ自分がいなくなった後の栄東には入れたいです。自分がいないんだったら入れたいですね。

逆に言えば自分の子どもを入れたいような学校にしようという気持ちでやっています。だって自分が働いているのに自分の子を入れたくないところなんて、嘘があるじゃないですか。

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