× ×
2016年6月14日

「私はただいい大学に入りたいだけであれば、別の学校に行くことをお勧めします」

取材日:2016年6月14日
インタビュイー:横浜サイエンスフロンティア高校 栗原峰夫 校長先生
インタビュアー:森上教育研究所 特任研究員 若泉 敏 先生

【インタビュー後半のあらまし】
・併設型中高一貫教育校のメリットとデメリット?
・中高一緒の大職員室?
・高校生と中学生の接し方「教え合いと学び合い」?
・「サイエンスの考え方」って何だろう?
・活躍して大学に飛び立った生徒たち

左:栗原峰夫校長 右:若泉敏

若泉:高校で(高入生と中入生を)一緒にするメリット、デメリットもいろいろあります。中学から6年間かけてサイエンスの考え方を根付かせるっていうことからすると、少なくとも高1段階までとか、あるいは高校3年生まで6年一貫できちんとしたもの(教育課程)を作り上げるんだという考え方も当然あるわけですよ。でもフロンティア高校では、そうじゃなくて、高1の段階で外部から入った生徒も中学から内進で来た生徒もいっしょくたにしちゃうんだと。ただ併設型の若泉:一つの困難性がそこではいつもつきまとうわけですね、とくに学力面で。附属中の3年間で築いてきたものが高校から入学したものとでは違うだろうという考え方があるわけです。そういうところを議論の中でどのように解決してきたのか。このへんをもう一言お話しいただきたい。

栗原校長:そうですね。あまりそこに踏み込んでいくと怒られちゃうかもしれませんけど。ずっとかかわってきた者からすれば、若泉さんがおっしゃったようなメリットデメリットは全部出したところでの、判断というのがあります。 たしかに6年間のあいだに純粋に育てていけば相当な成果が出せる子供たちがいます。ただ、この学校自体の特性といいますか、もちろん、出口(高校進学)のところがサイエンスフロンティア高校であるという部分で、小学校6年段階で(本校を)選択してきた子供たち、男女の問題ももちろん出てきますけど、そういったことを考えて、純粋に6年間育てていく魅力と、その危うさ、それはずいぶん話題になったところです。さらに、この学校がここまで成果を出せたというのは、やはり中学時代にいろいろな目覚めがあって、中学時代のベースになる力と興味関心をいだきながら、この学校に憧れをもって入って来て、それが、先ほど言った大学の選択であるとか、進路につながっているということは、われわれはここ数年確実に見てきたところです。つまり横浜の学校として、中学生をしっかりと受け入れる準備もすべきということがありました。 もう一つ、学力の点では非常に議論がありました。さきほどの東京大学の話からすれば、数字を出すには、とにかく6年間鍛え上げれば、この学校はいま成果が出ているんだから、より以上のものになる。それで行けという声もどこからか聞こえてもきましたが。ただそれがすべてではないし、じつは私たちが考えている進路指導、将来というものは、最初に話したような考え方に立っています。 そうすると、より多様なものが出会って、そこで切磋琢磨しながら考えていくことのほうが、はるかに有効です。まさに、異なるものと出会って、お互い協働しながら、認め合いながら、批判批評もしながら行くことが、将来にわたる力になる。それをサイエンスフロンティアで達成させるには、中学から来る者、高校から来る者、ぶつけさせることがとても大事だなと思うんです。いまの本校も、いろんなところでそういう面は重視しているんですけれど、それをより活性化させる、いい手立てになるんじゃないかという、私の思いがあります。それがいままさに求められているものだと。

若泉:それが今まさに国レベルで検討している、高大接続(大学入試)や高校と大学の教育改革の新しい方向性とすごくマッチしている。

栗原校長:そうなんです。自分もそうだなと思っています。

若泉:私も大賛成ですけれど、保護者がそこまで理解しているかというと、そこはギャップがあるんじゃないでしょうか。

栗原校長:そうですね。

若泉:しかしそこを、しっかり打ち出していくことには意義がある。いま先生がおっしゃったような、多様な中でいろんなものをぶつけ合いながら、より価値の高い、新たな創造性というものを、イノベーションを起こしていくんだ。このほうが、世界を視野に入れて、いわゆるサイエンスの人材を輩出するんだと謳っている本校としては意味があるというか、これが当たり前の水準だよと訴えていかれるんじゃないか。

栗原校長:そこが、うちの生命線ですし。うーん、ここまで言っていいのかというのがありますけど、普通に大学受験を、形は変わりつつあるとは言いながらも、やはり上位の大学を目指して、ある種の結果を求めるならば、本校ではない有力な素晴らしい学校がいくらでもあると思うんですね。そちらに行くことを、私はお勧めする。これは説明会でも言っています。本校に来て何を学びたいのか、本校を経てどう生きたいのか、そこを考えてくださるかたでなければ、逆に不幸になってしまうと。保護者のかたにそこまで理解をしてお子さんを送ってもらわないと、ミスマッチが起こる。一番かわいそうなのはお子さんなんですね。そんな例が当然いままでなかったわけではないので。そのこともふまえて、これだけ次に大きな改革をしていくという点では、より明確なアピールをしたいと思います。 ただありがたいことに、国の方向がそちらに向かっています。安西祐一郎先生(前中央教育審議会会長)が和田先生や校長の話を一緒に聞きたいということで、本校においでになり、ざっくばらんに話をしていかれました。まさにサイエンスフロンティアで育てている生徒たちが、進学をスムーズにできるように、その力を測れるような形にする高大接続なんだ、一緒に頑張ろうという話までいただくことができました。

若泉:そうですか。私も安西先生のお話は、改革のお話を3回くらい伺いましたけれど、まさに明治の学制以来の教育改革だとおっしゃっていました。それくらいの、世の中の価値観や教育の仕方をがらりと変える意義を持った教育改革なんだなと実感しますし、非常に説得力のある、幅広い視野のお話を聞いたなと思っていますよ。

栗原校長:本当に素晴らしい素敵な先生ですね。

若泉:これを歪んでとらえようとする教育界の動きがまだまだあります。その中で安西先生は大変な苦労をされているんだろうと思いましたね。

栗原校長:それはなかなか、波が高いし、という話はされていました。ただ、私はたまたまこういう個性的な高校を任せていただいているのでこの改革はありがたいかぎりです。 本校は3年でも課題研究の選択の科目があり、本当はそれを続けて、さらに大学につないでいくのがまさに接続であり連携だなと思うんですが、でも結局いまの制度ですと2年生のほとんどが研究を辞めるんです。3年になったらセンター試験があるし、(受験中心の)勉強してという形に多くの者が変わっていく。それでも本校には横浜市立大学へのチャレンジプログラムがあったり、先ほど言いました東工大とか東北とか、筑波などの大学に自分の研究の成果やいままで探究してきたものを一生懸命アピールしながら、アドミッションオフィス等(AO入試や推薦入試)で行く。東大も、推薦入試で認めていただいた。というようなことが少しずつですけど、出てきている。本校としては、ある部分それもメインストリームにしていきたい。もちろん、(一般入試で)着実に勉強していく生徒たちの力も大事にしたい、ということなんですけどね。

若泉:まあ、安西先生のお話を聞いておりますと、新しい教育改革の流れの方向性で、教員はもちろん、子供たちや親が、考え方、見方、生き方をも変えていくような土壌をいち早く作っておかなきゃいけないかなと。その中で、どちらにも対応できるのが、より強い基盤を形成することになる。下村博文(元文部科学大臣)さんも言っていたように、もうこれまでの偏差値の輪切りでなされた学校序列化の体系は、早晩崩れるよと。それは塾業界のわれわれ仲間はなかなか実感持てないんですけど・・・。本校のほうではそういう下地づくりをすでに進めやすくなっているんじゃないか。その中での附属中学の開設ですから。これはぜひ上手く成功させていただきたいと強く思いましたね。

栗原校長:ありがとうございます。まあ、その安西先生の話なども含めて、大学の先生がたも改革については非常にいろんな立場があり、なかなか難しいところもありますね。しかし改革に向け頑張っている先生がたもいらして、私もまさにそうなんですとある大学の先生に話したところ、ただね、栗原さんみたいな校長って珍しい、あんまりそういう校長いないよって言われました(笑)。やはり学校っていうのはこうであって、部活があって、こういう時期にはこうしてと、みんなある部分横並びでキチッと測られなければ、どの尺度で見るんだって言われますが、私はもう世の中自体がいろいろな形で評価される世の中に変わっている以上、学校だって変わるべきだと思うんですけれど。その先生にあなた少数派だからねって、言われました(笑)。当然そうだろうなと思いますけど。 でも、ぜひ全国の中でも本校が中核となるべく、新しい人間をこういう形で作ってきたんだよって、邁進していただきたいなと思っています。

若泉:併設型ですから、中学は中学の先生だけ、高校は高校の先生だけで回転していくということも考えられますが、本校としてはどちらの方向を。高校から中学に降りて、高校籍の先生も中学の授業も受け持って6年間かけて作っていくような方向性にあるのか、それとも、中学の文化があり、高校の文化があるんだから、それぞれの中で中高の統一した教育指標を持って育成していくんだと考えるのか。 (栗原校長)私の立場から言えるのは、一体化という部分は、十分考えているということです。本校は、高校では珍しいと言っていいですかね、大職員室型をとっていて、教科型職員室ではないんですね。いま私はここ(校長室にいる)なんですけど、私も以前は最前線に、向こうの部屋(隣の大職員室)にいて、目の前に教員たちがいる状況を作ってきました。隣はもう大職員室なんですか

栗原校長:はい。私は普段そこ(校長室と大職員室の扉)を開けています。もともと私の席は向こうにもありました。初代の佐藤校長もそうされていたんですけど、ほとんど向こうで仕事をしていて、必要なときだけこちらに入ってドアを閉めるかたちでした。今も扉が開いているときは誰が(校長室に)入ってきてもいいというふうにしています。管理職の人数が増えたので、向こうの出店がなくなってしまって、私はこちらに入ってはいるんですが。職員室には高校の教員たちが全員います。そこに中学の教員も入るように、いま準備しています。常に共有一体化してこの学校を見ていくという、基本方針はできています。

若泉:中高一緒の大職員室は実際に学校運営していく面では、威力を発揮する大事なところかなと思います。本校においては、中高の免許は両方ともお持ちのかたが中1の担任としても入ってくると考えてよろしいでしょうか。

栗原校長:こういう学校に配置されるときには当然6年を視野に入れた形で人的配置をすることは間違いないと思いますね。

若泉:いま横浜市は、市立の高校は6校くらい? もっと多いですか。

栗原校長:9つですね。9つあって、定時制を持っているところがあるので、われわれがよく言うのは9校10課程と。戸塚高校が定時制を持っていますので。川崎市は5つですね。

若泉:教員の指導力は? 9つというのはやっぱり大きいですね。横浜市は(数多くの高校を有する)全国でも大きな行政区であるといえますね。そうするとその中での教員の人材はよりどりみどりと考えられます? それともやはりまだまだ。

栗原校長:神奈川県東京都に比べれば横浜市立はたかだか9校10課程の中でのわれわれですし、中学とつながっていると言っても、そこの部分で言えば人材は限られた中であると言われても仕方ないと思っています。ただ、市立高校の、自分が中にいたから言うわけではないですが、教育力であるとか、生徒に対する指導力というものについては非常に熱いもの、高いものがあると感じています。その中でもとくにこの学校はと、先ほど話をしましたけれど。 いままでの話ですと、相当順調な歩みを見せ、成果も出してきているようにとられますけれども、そこに至るまでは苦労もありました。たとえば先ほどの教員の話で言えば、これだけ新しい理想でいままでと違う枠組みで作っていますが、それぞれの経験をベースに教員は物事を判断し動きますので、そこの発想を変えて、一つの方向に向けていくのは大変です。ご存じのように学校を支える一番は教員の教育力です。そこのところを、いかにこの学校の特別な理想に向けて進めていくかという点は、非常に大きな問題です。 さらに具体的に言えば、理科の教員ですね。うちは専任で17名います。課題研究、サイエンスリテラシーという教科がありますから、いわゆる物化生地(理科の4領域、物理・化学・生物・地学)を教えるだけではなくて、課題研究で、大学の先生がたとも連携しながら、ある高度な研究指導をしていかなければいけない。外にも連れて行って発表させたりという部分もありますので。その部分、理科の教員に要求されているレベルが違いますね。負担は非常に大きいだろうと思います。最近は若手で、博士号を持っている教員もとってくれるようになってきています。免許のない特別非常勤という制度を教育委員会が作ってくれて、1名いま研究面での指導だけのために来ているかたがいます。その人は免許状なしでも(指導が)できるという制度になっています。そういう意味で徐々に整備されてきているし、中の力を確実にしているんです。 最近はさらに、アクティブラーニングの展開も入れようということですから、相当な負荷がかかっていますが、サイエンス系の教員は非常に、やりがいはあると言っています。これだけの場、これだけの施設、サイエンスにこんなに目輝かせている生徒がいる、という状況はそうないので。意気に感じてみんなよく頑張ってくれています。そこまでの雰囲気を作ってくるというのは、やはりなかなか簡単なことではなかったのは確かですね。 それからもう一つ、グローバルな展開で軸になるのは英語。どうしても外せないところです。英語科の教員も、色々なタイプの教員が集まってきてくれていますが、本校の英語科はコミュニケーションの部分ももちろん大事ですが、サイエンスと英語のコラボレーションを求められます。英語(科)の人間がサイエンスをある程度理解しなければいけない。2年生ではいわゆる海外修学旅行、うちは海外研修と呼んでいますけれども、10月にマレーシアの提携しているセカンダリースクール、優秀な私立の中等教育学校がマラッカにあり、そちらに行って全員自分の研究を英語で発表するんですね。それを本校教育の一つの軸にしています。そのことも含めて、英語の人間がサイエンスを理解して、サイエンスの人間とコラボしながら生徒たちを指導しています。未知との遭遇です。目の前の生徒とともに高みを目指すというのは、いままで(一般の高校では)例がなかったことをこの学校で積み重ねながらやっているのです。そこが一番、難しいところであり、徐々にその成果が出て蓄積を出してきているということはあります。 さらに、SSH(スーパーサイエンスハイスクールの指定)をいただき、SGH(スーパーグローバルハイスクールの指定)をいただき、生徒たちにとっては学びの場がどんどん増えていくということなんですけれど、教員からすれば、また新しい課題の中にミッションを持って授業を作っていかなければなりません。ですので、こんなに魅力的な場はないということは、イコール、それだけ他の学校の教員に比べればハードワークを私が強いているということでもあると思いますけれども」

若泉:まさに正念場だろうと。教員自身も、好奇心を深く広く持って、果敢にチャレンジしていく。しかも、受け身で言われて動くんじゃなくて、主体的に実質的に探めながら、まさに探究をしながら、自分の研鑽も積んでいくという。そういう場として(この学校が)あるんだということを、自覚して動いていかなきゃいけない。

栗原校長:そうです。まさに、若泉さんに学校経営やっていただきたいですけど(笑)。自分たちは生徒の、やはり範にならなくてはいけない。自分たちがそうでなければ、生徒たちを指導できないし、ついてこない。最初に、サイエンスの力と言葉の力という言い方をしました。教科は関係なく、とにかくみんながサイエンスの力、言葉の力を持って、生徒たちに向かわなければ、そんなことをいくらお題目で唱えていても、生徒たちは力をつけてこない。ですから、つねに教員が好奇心を持ってコミュニケーションをとって、言葉をつないで、チームを作って、生徒に向かって行かないと、そういう生徒には育てようがないわけです。そうでなければ、すべてが反面教師になってしまう。中心になっていくメンバーは意気に感じて、まさに、われわれがこの仕事を選んだのは、子供たちの成長を見て喜び、そしてまた成果が出てくることが喜びになるからで、また頑張ろうと思いますよね。最初の頃は急には結果が出て来ないところがあります。それが徐々に出始めて、それがだんだん結んできたというところで、教員のモチベーションをずっと維持しているということはありますね。

若泉:どの世界でも言えることですけど、自分が楽しいな、面白いな、もっとここを探究したいなと思うと、苦労も苦労じゃなくなってくる。

栗原校長:そのとおりですね。 そういうような場を作れるかどうかというのが、管理職の仕事なのかなと思います。

若泉:そのほかに中高一貫化される中での課題を、先生はどう見ておられますか。

栗原校長:やはり、一つは高校の側からすれば、中学からの6年間というものが、自分たちにはまだ実感できていないということがあります。そこのところを、先ほど言いました、お互い一緒になって見ていく形になるでしょうね。

若泉:人間は自分の殻をなかなか崩そうとしない。とくに高校は専門性の自覚が高いですから。そこへ、中学生を受け入れる一番の面倒は、生活指導にも気を配りながら指導していかなきゃいけない。これが、いやだと思う人たちが高校の教員にいる。

栗原校長:そうなんですよね。それは準備段階でいろいろ議論して、プロジェクトを作って話をしているときに、私もあっと思いました。中学経験を経て本校に来て、中核をなしている者たちがいますが、その人たちをピックアップして話を聞いていたときに、中学生だとこういうことも気をつけなきゃならないんですよ、こういうこともあるんですよって教えられました。自分は、高校畑でずっと来ていたので、自分の中学時代を思い起こすしかなかったので。こんな行動もしますよ、この中だとこんなことが起きうるってシミュレーションして、受け入れないとダメですよって話ですね。そこのつなぎの部分では、本校のあるスタッフたちが非常に大きな力を発揮するだろうなと思います。中学をわかっていて、接続を考えながら、そこに乗り入れをしていくところでの役割を十分に果たしてくれるだろうなという気がしています。

栗原校長:もう一つは高校生と中学生の関係づくりです。去年からずっと、新しく入学してくる受験生(中3生)たちに呼びかけています。本校の高校生にも働きかけていますが。きみたち、(来年は)中学1年生、小学生に毛が生えたような子たちが目の前に80人入ってくるんだ、こんなすごいチャンスはない。きみたちが弟たち妹たちにどう接するか。それがサイエンスフロンティアの命運を左右するし、それがきみたちにとっても大きな経験になる。これを魅力だと思えという話をしています。とにかく全体で雰囲気を作っていこうということを、いま言っています。本校の生徒たちならやれると思いますね。本当にいまも小学生中学生に対するサイエンス教室などは非常に積極的に手を挙げて参加しますし、私などが見ていても丁寧に小さな子供たちの指導を非常によくやる生徒たちです。

サイエンス教室というのは、夏休みなどに、小学生を呼んで行うものですか?

栗原校長:小中学生を呼んで、本校の生徒がリーダーとなって体験するプログラムをいくつもやっているんです。文化祭も来ていただくと、サイエンス教室のような実験教室などがあります。小さい子たちが来るんですが、非常に丁寧に相手をします。まあ、面白いですよ。本校の生徒たちが、自分たちが、日本の理科離れを防ぐんですって言うんです。小学生の(頃にきてやった)サイエンス教室は僕たちも楽しかった。ところが、中学に行ってだんだんそういうことが自由にできなくなって、だからこの学校に憧れて入ってきて、戻す、掘り起こすって言うんですね。目の前に中学生が入ってくるから、ちょうどいいじゃないか、そういう雰囲気をいま学校の中にも作ろうと、一応私は努力を始めています。

若泉:東京大学教育学部教授の、市川伸一先生が、教えて学ばせる、でしたかね、そういうことを言っておられました。東大教育学部附属中等教育学校は、学びの協同ということもやっていますが、中高一貫校の中で生徒たちが教え合い学び合うというものを実践的にやってきた学校ですし、県立千葉(併設型)は、中学開設の2年ほど前から、東大教育学部附属を研究しながら、生徒の動きも含め、カリキュラム上のスパイラルも学んで、取り入れたようです。先行している一貫校のなかで、そういう生徒の面と、教師の変化のところは、市教委が中心だと思いますが、全国の調査をなさったんですかね。

栗原校長:ここは切り分けて言いますが、準備室が高校教育課で立ち上がっていて、その準備室のメンバーはいろいろなところを視察をして、勉強しています。担当の課長を中心に、それは非常に積極的に動いていますね。

若泉:もう少し中身に入ってお尋ねしておかなきゃいけないことがあります。ここ(中高一貫教育校化に関する基本計画)に、「サイエンスの考え方」を身につけさせるって出ているんです。考え方ってなんなのかなって読んで見てみますと、私もがこれまで考えていたことと符合したんですね。あ、これは確かなものだろうと思いました。和田先生が言っておられるのは、まず【正確な観察】。つまり事実をきっちりとらえましょうよと。その上で、体験も含めていろいろな【情報を集め】、それを今度は細かいところも見つめながら、【正確に分析】したり、【統合して整理】するんだ。それから、今度は【発信】していくんだ、ということだったかと思います。その過程を通して、また合理的な。ここでは、「論理的な」は出てこないんです。【合理的な、そして総合的な考え方】を作るんだと書いてあります。これはとても理に適っているんですけれども、親御さんたちに、学校はこの「サイエンスの考え方」をどのように伝えているのかな?と思うのです。

栗原校長:そのままの言い方はあまりしないですね。しっかり観察をして、それを分解して分析して、要素を切り出して、そのつながりをしっかり見ながら解決に導く。それを正確にわかりやすく説明できるようにする。筋道をきちんと立てて物事を考えられる力。それが論理性です。それがサイエンスの基本なんだという言い方をします。ただ、その論理をしっかり立てる上でベースとなっている素養がなければいけなくて、それは確実に身に付ける。物事の考え方が独立してあるわけではなく、たとえば、これが問題ではないかと気付くにしても、そこに経験がなければいけないし、知識、素養がなければいけないから、それはこの学校でつけます。ただ、知識だけを持っている人間ではだめで、それをいかに仲間とともに解決に導いていき、きちんと提言ができるかという部分で、それを総合してサイエンスの力という言い方をしています。なおかつそのプロセスにおいて、仲間と協働し、自分の中でそれをまとめ、最終的に明確なアピールをする。そのことを、今度は言葉の力だという言い方をしていて、その二つをこの学校の学習の柱としていて、基軸がサイエンスリテラシーという教科なのです。課題研究をしっかりとやり、最終的には英語のプレゼンまで持っていく。そこを軸に、それぞれの教科の力がそこに働くような形で、カリキュラムマネジメントをしているという言い方ですかね。

若泉:なるほど。非常にわかりやすくて、いいなと思いますが。 もう一つ私が着目していたのは、そうやって情報を整理し、分析した中で、いろんな知識を、私の使う言葉だと「からめる」なんですが、きちんとつないでいくよ、と。その、つなぐ作用を実体験することが大事だなと和田先生も言っておられたのかなと思いますが。

栗原校長:はい。和田先生の言葉ですと、それは知識がつながって初めて知恵になる。知識と知恵。いま若泉さん入ってこられたところに、2階のところで2つの建物をつなぐ架け橋があり、頭にたくさん賞をとったものが貼ってあります。あれを知識の架け橋と言い、川側のほうに知恵の架け橋がある。最初は知識だけど、奥に知恵が控えているんです。和田先生の知識と知恵というところから、架け橋のネーミングをいただいたんですけど。知識を知恵に変えて、その知恵によって、なんらかの形で問題を解決していく。それが研究の成果としての発表になるかもしれないし、あるプロジェクトについての自分なりの立場で役割を果たすことにつながるかもしれない。

若泉:なるほどね。私、架け橋のところを見まして。理系のコンテスト、大会だけじゃなくて、文系も結構、作文とか、感想文とか出ていましたね。

栗原校長:自慢と言っちゃいけないですけど、まさにリベラルアーツを理想とする学校であり、自分がここの校長にいる意味があるなあと思います。文芸部も熱心でして、私は文芸部の特別顧問ですから、座談会に出て、去年も、人を愛するとはどういうことですかね?など真面目に女の子たちと話をしました。表現するのが非常に好きなだけでなく、とても素直に個性を発揮できる生徒たちがいて、恥ずかしがらずに自分たちで冊子を作ったり、いろんなところに投稿したりする生徒たちがいる。その生徒たちだけではなくて、ものを書いたりするのが好きな生徒が非常に多いですしね。

若泉:最後に、科学コンクールなどで活躍して飛び立った生徒の話をお聞かせください。

栗原校長:朝日新聞の主催しているジェイセック(JSEC:高校生科学技術チャレンジ)という、日本で最高峰の高校生の科学技術コンテストがあり、そこの上位に入るというのが本校にとっては大きな目標でした。それで科学技術振興機構賞をとった女性がいます。もう一人の男性は、朝日新聞社賞をとりました。これまでも、地学オリンピックでアルゼンチンまで行って金メダルとってきた2期生がいましたが。一生懸命地道に研究をしてきた女性が、科学技術振興機構賞をとり、国内でベスト3に入ったんですね。その成果をもとに東大に応募をして、勉強も頑張って、センターの点もとったうえで推薦入試で合格をしたわけです。また朝日新聞社賞をとった男性は慶應大学に行きました。2人とも、この5月アメリカで行われたインテルの世界科学技術コンテスト(Intel ISEF 2016)、そこに日本代表として出るチャンスを得たんですね。すると今度は男性のほうが、アメリカで上位の賞をとりました。彼は在学中英語が苦手で、嫌で、私たちも心配しましたが、とにかく研究に対する情熱、意欲、それは見事なものでした。それが認められ国内でもいろいろと表彰されて、大学は慶應に行くことができました。先日、彼が学校に来たときに話を聞きました。するとやはり、自分自身大学に行ってから勉強を深めている、と言っていました。自分がさらに次を目指すために必要な力がこれ(英語)だと思えば、新しい努力を重ねていく。彼は(大学入学後も)本当に伸びており、高校の段階でわれわれが子供たちの力を絶対見切ってはいけないということを実感しましたね。

若泉:なるほど、素晴らしいお話でした。長い時間本当にありがとうございました。

(インタビュー終了)

PAGETOP