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    取材日:2016年11月19日

    インタビュイー:国語科 椎野秀子先生

    インタビュアー:中央大学法学部1年 釘嶋結生

    1. 自己紹介

    釘嶋:まず先生のお名前をお願いします。

    椎野先生:椎野秀子です。

    釘嶋:担当科目は・・・

    椎野先生:国語でございます。

    釘嶋:じゃあ担当しているクラブは・・・

    椎野先生:クラブは演劇クラブ。

    釘嶋:ずっとですか?

    椎野先生:15年ぐらいですね。その前は実は書道クラブとか卓球クラブとか。

    釘嶋:卓球?!運動部やられてたんですか?

    椎野先生:もちろんです。若い頃はそうなんです、みんな。(笑)

    釘嶋:教師歴は?

    椎野先生:教師歴は、36年目になります。

    釘嶋:長いですね。

    椎野先生:ここに新卒で入ってからずっと、本校しか知らないという感じで。

    釘嶋:ずっと国語?

    椎野先生:そうなんです。36年間国語を教えてきました。

    釘嶋:すごいです。プロ中のプロ。先生の趣味は。

    椎野先生:趣味はハイキング、旅行、フラワーアレンジメント。

    釘嶋:フラワーアレンジメント?!

    椎野先生:知らなかったでしょ?

    釘嶋:はい。存じ上げませんでした。(笑)

    椎野先生:わずかな隙間を見つけて素敵な先生のお宅に行ってお花をアレンジする。自宅では夢が見られない空間なので。(笑)出向いて行って。

    釘嶋:そうなんですね。旅行っていうのは、最近だとどちらに?

    椎野先生:旅行はですね、結構色々行きます。長いお休みはとにかく出かける。イタリア、フランス。

    釘嶋:わ、海外!すごい。

    椎野先生:一番好きなのはスイス。マッターホルンを眺めるっていうのが大好きです。

    釘嶋:眺める。

    椎野先生:眺める。登れないので。

    釘嶋:いいですね、観光地を急いで巡るんじゃなく眺める。

    椎野先生:眺めるんです。すごくこの話も長くなるんですけど。(笑)

    釘嶋:そうですね、飛ばしましょうか。(笑)

    椎野先生:そうですね、はい。(笑)

     

    2. 中高一貫校にあって一般の中学校にないもの

    釘嶋:日本女子と言えばこれですかね。中高一貫校にあって一般の中学校にないものといったら何ですか?

    椎野先生:ゆっくり深く流れる時間だと思います。一般の中学校はもとより、いわゆる、より良い大学に入っていくことを目指している学校に比べて、私たちの学校は先取りをせず、深堀をしながらゆっくり6年間が過ぎていくという学校だと思います。

    3. 授業で心がけていること

    釘嶋:先生の今のお答えを伺うと、国語の授業はまさにこの1冊の一つの作品に、長い時間をかけるじゃないですか。それがわかりやすいかなと思うんですけど。授業で心がけていることは?

    椎野先生:中学時代をスタートにして、たくさんの世界に会えるチャンスの種まきをしようと思っています。たくさんある作品の中で今、中学生の心に響いたり、数年後に「あの時読んでおいて良かった。」というような作品と出会ってほしいなと思ってます。


     4. 教材について

    釘嶋:先生は文庫本を使って授業していくじゃないですか。教科書はほとんど使わないですよね。

    椎野先生:1年生で一番最初に授業で読んだのは「夏の庭」ですよね。

    「夏の庭」湯本 香樹実(著)

    釘嶋:あー!忘れてしまった。

    椎野先生:あと本校は、誰が担当しても1年生の2学期は宮沢賢治をとにかくやります。「銀河鉄道の夜」はさりげなく読んじゃうと小学校の童話だと思ってしまう。でも大人が読んでも難解でわからない。こういう作品に中学1年生で出会うことによって、得体の知れない文学の世界にちょっと手が伸ばせてきて、「自分で考えると色んなことが見え始めるぞ!」という宮沢賢治の不思議な世界、深い世界を味わってほしいと思います。覚えてますか?「銀河鉄道の夜」の世界観というか、その雰囲気を。

    「銀河鉄道の夜」宮沢賢治(著)

    釘嶋:覚えてる。ジワーっと暗いところから始まって、月明かりに照らされてちょっとだけ「あ、ここだけ光がある。」って思いながら。展開がわかりやすいわけじゃないけれども、ジーっとしながら着実に一歩ずつ、「彼が何かを変えたいんだろうな」と思って進めてる感じが。私、最初先生のテスト苦手だったので、苦労しながら、「はあ・・・。」ってやってたのを覚えてます。

    椎野先生:黒板にね、板書を全く書かないから。

    釘嶋:そうなんです!先生書かないから。(笑)最初は本当にノート一をとるのも苦労しましたけど。

    椎野先生:そうですよね。そういう中で、小学校時代は「ああ、イジメのお話?」なんていうレベルで読んでるものを、自分の宇宙観とか生き方の模索というところまで、時間をかけて深く学んでいけば、中1であればちゃんとわかってくるんですよね。何といっても、私が「銀河鉄道の夜」の最終でみんなにわかってほしいなと思っているのは、インドの詩人でアジアで初めてノーベル文学賞をもらったラビンドラナート・タゴールが打ち出した宇宙観・世界観と、宮沢賢治がこの「銀河鉄道の夜」で表している世界観、神秘的な大自然に尊敬の念を持ちながら、自分がその中でどういうふうに生き方を見つけていくかというこ

    とを重ねながら最後にまとめていくというのを、中学1年生にもわかってほしいなということなんです。100%わかることが授業ではないと思ってるので。「なんかわからないけどモヤモヤするな。」というのを残しながら教えていく。そしてそれがテストでまた新しい、ちょっと違うとこから光を当てると・・・。

    釘嶋:はい。

    椎野先生:「勉強したな。」「頭良くなったな。」と思えるテストを目指してるのよっていうふうに言ったと思うんですけれども。でもそれも最終段階ではなくて、ずっとこの辺に引っ掛かってるようなことが、改めて高校生になり大学生になり大人になると「なるほど。」ってわかってくるような作品との、一番最初の出会いが宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」だと思っています。

    釘嶋:今、母が「TSUGUMI(つぐみ)」を読み直してるんですよ。

    「TSUGUMI(つぐみ)」吉本ばなな(著)

    椎野先生:あ、そうなのね。

    釘嶋:家の本棚に入ってて、母が「何だっけこれ?」って言って読んでみたり、私も今先生のお話を伺って「銀河鉄道の夜」を読み直そうかなってちょっと思ったり。読むタイミングによって絶対違うんですよね、感じることが。だから私はそれでノートを捨てられないんですよ。あの時授業ではどんなことを習ってて、今読み返すと・・・。

    定期テストのために「銀河鉄道の夜」について自主学習でまとめたノート。各登場人物の心情をまとめたり、自分で問題を考え、その答えをまとめる。テスト前は、この作業の繰り返しで、とにかく国語のテスト勉強に時間を割いたとのこと。

    椎野先生:もう10年も前のノートなのにね。

    釘嶋:そうなんですよね。何を思うんだろうか・・・なんか捨てる気が起きなくて。

    椎野先生:板書は何も書いてあげない、黒板にキーワードのふりして一番関係ないことを書いたりするだけで。(笑)書き連ねてはいかない。だからノートは大変なことになってますよね。それでも自分がその時に、最大限頑張って背伸びして考えた、自分の一生懸命書いた文章が詰まってるから捨てられないのよね。

    釘嶋:捨てられないです。それこそ中学受験の入試の段階で、自分の考えを書きなさいっていう問題が出てくるじゃないですか。私、実は入学前は国語が一番苦手だったんですよ、本当に。試験の時も自分の考えを書きなさいと言われても書けなくて。私、今はハッキリとモノを言う性格になりましたけど、入る前はそれができなかったんです。

    椎野先生:うちの学校のおかげですね。(笑)

    釘嶋:そうです、おかげさまで。(笑)「自分の考えって何?」みたいな感じでした。そういう受動的な姿勢がまだ残ってるので、自分の考えを持つということ自体が入試の段階だと本当に難しくて。だから入試も「え?!」ってなりながら。今でも覚えてますよ、試験の教室で「えー?!」「だめかも。」って思いながら解いたのを。でもそれが中学3年生の時の、それこそ最後のテストのときには、自分の考えを問題用紙にびっしりと書けるようになるじゃないですか。もう手が動かなくなるくらい、すごい書いて。

    椎野先生:うん、すごいことになりますよね。

    釘嶋:60分間書きまくって、疲れ果てちゃうんです。しかも特徴的なのって、時間の枠が足りなくてみんなが書き終わってなかったらテスト時間を延長してでも・・・。

    椎野先生:そうなんです。

    釘嶋:まずみんなの考えを教えてっていう姿勢が多分独特だなって思います。

    椎野先生:最後テストの5分くらい前になるとクラスの様子を見て、「あ、こりゃだめだ。」と思ったら「5分延長します。」って言って回るのね。そうするとみんなが「よかった!」って言いながらまた書くのね。(笑)

    釘嶋:そうそう。(笑)今の社会っていかに効率よく動かしていくか、時間内に最大の成果を出すかっていうのが過多になり過ぎてるなって思います。じっくり自分の考えを相手に伝えることをここの国語の授業では重点的に習った気がします。だから本当にテストで解き終わらなかった時の絶望感は最初の頃はありましたし、テスト時間が延びた時の嬉しさもありましたし。中3の終わりを見ると、入試の時と比べて書いてる文章の量が全然違うから。

    椎野先生:量もね、文字もね。そのスタイルもね。

    釘嶋:もちろん今読み返せば恥ずかしいってなる内容のものも実際あるんですけど。

    椎野先生:でもこれあなた2年生の時ですよ。3年と言わず。

    釘嶋:そうですね、これは2年生でした。

    釘嶋:でも楽しかった。当時はやっぱり大変で。大体テスト準備が2週間前から始まって1週間前の土日は椎野先生の週末だったんですよ。椎野先生対策。ひたすらノートに自分の考えをまとめて、作品の特徴をまとめていく。でも、テストの時にはちょっと視点をキュッと変えて先生に問われて。

    椎野先生:そうなんですよね。(笑)プリントを作りながら、ほとんど出すことを全部教えてあげるフリしながら、勉強をするための導きであってテストの問題ではないんですよ。

    釘嶋:そうなんですよね。

    椎野先生:それをちょっと作り変えて、頭がキューンてなりながら解いてまとめる。そうすると「ああ、60分のテストで、受ける前よりすっごく自分が考えて、なんか頭よくなったかも。」って思える体験をしてもらいたいと。

    釘嶋:テストで自分の成果を測る、もちろんそれもありますけど、先生のテストでは、最後の大きな階段を一歩上るというか。

    椎野先生:ありがとうございます。

    釘嶋:楽しかったです。本当に大変でしたけど、今思えばこれがあったかないかで今の過ごし方ってだいぶ違います。考えることから逃げなくなるじゃないですか。

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    [銀河鉄道の夜まとめノート①]※テスト前は自分で問題を作り答えをまとめることの繰り返しだったそうです。

    [銀河鉄道の夜 まとめノート②]

    [銀河鉄道の夜 まとめノート③]

    [銀河鉄道の夜 まとめ④]

    [銀河鉄道の夜 まとめノート⑤]

    ⬇︎大問二:「『沈黙』の作品論をテーマを定め論じなさい」。これは、釘島さんが中学2年生の時に受けた国語のテストです。60分間、高度な論述形式の問題と格闘している様子が伺えます。

        [問題用紙]         [解答用紙]

    5. 校外学習では授業で学んだことを体感する

    釘嶋:やっぱり、授業の話をすると国語に偏っちゃいますね。でも面白いのが、この中学1年でやった宮沢賢治とか「智恵子抄」とかもそうですよね、2年で。

    「智恵子抄」高村光太郎(著)

    椎野先生:そうですね、2年生で。

    釘嶋:東北の中2で行く・・・。

    椎野先生:中学2年生の9月に東北校外授業に3泊4日で出かけますが、そのために。

    釘嶋:これですよね。

    椎野先生:これもうちの学校の精神なんですけど、一つの行事をノルマというか、ここがわかってしまえば終わりというパーツにはしたくない。それはやっぱり他の学校とは違うところ。例えば運動会も当日で終わりではなくて、いかに準備して本番を迎えて、そして迎えたあとにどうするかという山の連なりが1年の行事に山のようにある。その最たるものが2年生の真ん中で行く東北の校外授業。修学旅行って呼んでないんですよね。

    釘嶋:そうなんです。

    椎野先生:その東北の校外授業に向けて、例えば教科としては1年生の1学期から勉強が始まるわけですね。さっき話に出てきた宮沢賢治の勉強も、東北の彼の地に立った時に、彼の作品や「銀河鉄道の夜」の世界を知っていれば、一般のお客さんが行かない羅須地人協会の畑の上で、何も建物はないけれども、そこに吹き渡っている風と「下ノ畑ニ居リマス」っていう宮沢賢治の言葉をそこで体感して「わー。」って。作品を知ってるが故に他の観光客には見えない世界が見えてくる。そういうことをしたいと思うので宮沢賢治を1年生の国語でやりますね。それから今はちょっと太宰治の斜陽館にも新幹線が延びて行けますので

    、太宰の「走れメロス」だけではなくて「津軽」の作品を熟読していきます。そして2年生になれば石川啄木の「一握の砂」をはじめとする三行詩の短歌をやり、そして当然「奥の細道」を朗々と月見坂でみんなで暗唱し。

    「走れメロス」太宰治(著)「津軽」太宰治(著)「一握の砂」石川啄木(著)「奥の細道」

    釘嶋:在学中にやりましたよ。

    椎野先生:そうですね。学んでることがこれから出会う世界をもっともっと豊かに感じさせてくれるっていうようなことをやりたい。

    釘嶋:できてます。

    椎野先生:できてますか。(笑)だから理科や社会ももちろん現地に行かないと味わえない。

    釘嶋:そうです。白神山地に行って。この木は何だってやりましたね。

    椎野先生:そうそう。「キレイねー」と山を見るんではなくて、「ああこの山はコニーデ型であって・・・。」

    釘嶋:やりました、やりました。

    椎野先生:というような感じで。それはこの噴火した時の土の粘性により山の形がもっこ型になったりとかいうようなことをうちの生徒はわかる。

    釘嶋:ありますね。

    椎野先生:それから「キレイな滝で何て名前・・・」じゃなくて、滝を見ながら「この滝の裏の岩たちは柱状節理になっていて」っていう見方ができてくる感じなんだけれども、実は国語も現地に行って、そこに吹き渡る風を体感するっていうことで作品を知ってるか、味わってるかっていうのは大きな違いが出てくるかなと思う。行事とのつながりですよね。

    釘嶋:私、高村光太郎が大好きなんです。だから東北行った時にも何もないお家とか十和田湖の寒過ぎて霧がかかってる感じとか。ここで彼は人生を閉じようとしたんだって。中2なんて何もわかってなかったですよ、今でもわからないけど、でも覚えてるんですよね、確実に。白神山地に行った時も絶対ここにもう一度来ようって思って、行けてないんですけど。これからの人生の振り返りポイントみたいなのをいっぱい作ってきた感じがしますね。高村光太郎をとっても、銀河鉄道の夜をとっても。「永訣の朝」の原稿を見た時の彼の妹が死んじゃった時の原稿の字の汚さ加減が。

    「永訣の朝」肉筆原稿

    6. これまでに習った尊敬できる先生

    釘嶋:尊敬できる先生のことをお聞きします。今まで聞いたことないですね。

    椎野先生:まず本校に新任の教員としてやってきた時に、そんなに年齢の遠い先生ではなく、「あ、この教師が私のロールモデルだ。」って一番思ったのは、畏れ多いんですが、今の副校長先生の下村由紀子先生でした。

    釘嶋:へー!

    椎野先生:7歳違いなんですけれども。女性が生徒と対等に、きちんと叱る時はバシッと叱りながら相対していく姿勢はすごく素敵だなって思いました。でもそれ以上に私たちの国語科はものすごく有名な先生たちで溢れていたんです。それはそれは厳しくて怖くて、やらせることも山盛りで。そういう先生方が本当に名物の先生としていらっしゃったので。公立出身で普通の授業しか受けたことのなかった私は本当に全部教えていただきました。

    9. 教師になった直後と現在との違い

    釘嶋:じゃあ教師になった直後と現在で先生ご自身が大きく変わったことっていうのはいっぱいありますね。

    椎野先生:はい。教師になって初めて本当に勉強することを始めたと思います。その意味では一生勉強をしていられる職業に就けて、しかも毎年新しい生徒たちがやってくる場にいられるのは、本当に人生一番の幸せだと思ってます。

    7. 生徒との印象的なエピソード

    釘嶋:先生って授業するだけじゃないですよね。生徒からの相談とか、聞いた言葉とか印象的な内容があったら。長い30年以上の教師歴の中で何かあれば。

    椎野先生:つい最近のことです。私はちょっと膝を痛めて、歩けなくなって、そういう時に「大丈夫ですか?」って言ってくれる生徒もいるんですけど、何となく優しい目線を送ってくれる生徒がいるんです。それがちょっと良くなった途端に「良くなったのね!」とか「大変でしたね!」って言ってくれる。これが本校の生徒なんですよね。具合の悪い人とか困ってる人に「大丈夫?」って声をかけるのも優しさなんですけど、自己満足の場合もあって。

    釘嶋:確かに。

    椎野先生:それをぐっと見守っていって、元気になった時に、心配してたとは言わなくても、「よくなったんですね。」とか「よかったね、先生」ってたくさんの生徒が言ってくれるっていうのが、「ああ、うちの生徒はさすがだな」って。今教えてるのは中1なんだけど、2年生、3年生、それから高校生が、私が膝を痛めて、エレベーターを申し訳なく使っていた時には何も言わずに通り過ぎていったのに、調子が良くなって階段を降りられるようになったら「あ、階段使えるようになった!」って言ってくれる。

    釘嶋:そうですよね、高校も隣にありますもんね。エレベーター使ってたら先生は目立ちますよね。先生どうしたの?ってなりますよね。

    椎野先生:小さな話ですみません。

    8. 子どもをほめて育てるべきか、厳しく育てるべきか

    釘嶋:子どもはほめて育てたほうがいいですか?それとも厳しく育てたほうがいいと思いますか?

    椎野先生:ディベートだとどちらかの立場に立たなきゃいけないんですけど、私たちの学校の生徒は、きちんと叱ってくれる先生のほうが好きです。何が正しいかわかりませんけど、生徒をきちんと見る時は、叱らざるを得ない。その場面を逃してしまったらなかなか本当の信頼関係は作れないなと思うので。褒めることも大事なんですけども、どのタイミングで的確に叱れるかどうか。それからそれは褒めることでも同じです。私たちが褒めなきゃだめって思ってずっと褒めていたとしても、別に生徒自身は何の心も動かないなっていう場合もあるので。生徒にとって「そんなところを見ててくれたの!」っていうところを褒め

    た時に、生徒が「え?!」って驚くのと「わかった!ここで何かクモの糸がつながった!」っていう感じは大事ですから。実は褒めるのも叱るのも、一番褒めてほしい、叱ってほしいことを的確につかんで、きちんと両方をやるということが大事かなと思いますね。

    9. 携帯電話について

    釘嶋:子どもが学校に携帯電話を持ってくること。禁止するべきか、それとも許可して健全な使い方を教えるか。

    椎野先生:難しいとこですね。

    釘嶋:そうですよね、学校によっても全然違う。

    椎野先生:今の時代は禁止するのは違うと思うんですけども、本校は幸いなことに中学・高校に一つ区切りを置いていますので、やはり中学校の思春期の入門期には学校に持ってきて使うことを基本的に禁止しているという体制はいいのかなと思います。でもそれは使い方すべてを禁止するっていうことではないので、先週の私の国語ダブルの授業は・・・。

    釘嶋:あ、クラス二つに分けるやつですね。

    椎野先生:そうです。何かというと、ミニディベートをしました。司会はまだ私がしているんですけども、20人の生徒たちがYES、NOに分かれて、「小中学生は時間制限を設けてスマホの使用を禁止すべきである。」という論題で話し合いをしました。愛知県刈谷市が携帯電話の使用制限について実際に使用した基本的なデータを、正しくみんなに押さえてもらったあとに、そうした「年齢によってスマホの時間制限は大事か?」っていうことを20分ぐらい話したんです。そして最後に意見文としてまとめてもらったんですけども、そうすると「禁止すべきである」に賛成派が圧倒的に多いんです。

    Link:愛知県刈谷市の”スマホ夜間制限”について

    釘嶋:へー!意外。

    椎野先生:その論題への理由づけも「以上三点により・・・。」とか見事に書けている。

    釘嶋:苦し紛れの三点じゃなくて。

    椎野先生:はい。

    11. 先生と生徒の関係性

    椎野先生:卒業生もよく言うんですが、うちの学校は生徒と先生の距離が近い。

    釘嶋:ありますね、確かに。

    椎野先生:ただ私は、敬語も使わずに立場を超えて友達のように話すのを近さだとは思ってないんですよ。そうではなくて、でも本当に親身になって色々人間対人間っていう形の話ができる。その最たる人が下村由紀子先生でいらしたんですけど、やっぱりそういう学校でありたいなって思ってます。

    釘嶋:卒業生にもそれは同じですもんね。こうやって私が話していても先生とタメ口で話すことはないですけど、でもだからといって・・・。

    椎野先生:遠くではないよね。

    釘嶋:畏まって「おはようございます。」っていうのはないですし、先生が来て恐れるというのではないから。でも威厳があると私は思ってますから。

    先生によって距離感も違うじゃないですか。クラブの先生なのか、担任の先生とかでも変わってくるし。14. 好きな本・影響を受けた本

    釘嶋:私、一個覚えてるのが、先生のお話の中で、「娘とこんな話をしたのよ。」って一冊の本をきっかけに、娘と感想を言い合ったみたいな話をしてくれたことがあって。好きな本とか影響を受けた本とか。やっぱり高校の先生っていっぱい本読むんだって純粋に思って。(笑)

    椎野先生:私は娘が家で読む本については何の禁止もしなかった。この本はまだ早いからとかそういうことは一切なくて、その代わり本についてのディスカッションというか、そういうのはしてたかもしれませんね。

    釘嶋:特にお気に入りの本とかは?

    椎野先生:私自身のお気に入りの本というか良い本に出会ったなと思うのは、中学生の時に読んだ「車輪の下」。授業もしましたか?

    釘嶋:しました。

    「車輪の下」ヘルマン ヘッセ(著)

    椎野先生:しましたね。あれを読んだ時に胸が本当に切なくなってえぐられて。だから大好きな本を授業でできる幸せはありますね。それから高校生の時に読んで、作家って人間なのよねってすごく思ったのは、森鴎外の「舞姫」。

    釘嶋:へー!森鴎外。

    「舞姫」森鴎外(著)

    椎野先生:森鴎外は単なる文豪の偉い人じゃなくて、エリスとの恋にこのような小説を書かずにはいられなかった人間なんだなっていうことを思いました。それから教師になってからこれ教えたいって思ったのがユン・チアンの、「ワイルド・スワン」という本があるんですけども。それがまだ文庫本にならずに単行本で一冊1,500円とかするような本で、上下2巻出て。それを読んだ時に打ち震えて。この中国の女性の悲しい歴史に心がざわついて。もうこれを授業でやりたくて仕方がなくなっちゃって。その時にこの本をやりたいっていうふうに言ったら学年主任の数学の先生は「こんな高い本をお預かりしているお金で生徒

    全員に買わせることはできない!」っていうふうに反対なさったの。そしたら当時パートナーを組んでいた国語の先生が「あなたが心の底からやりたいって思ってるならやってごらん。」っておっしゃってくださって。何か私たちが冒険的なことをやろうって思った時に「そんなに思ってるならやってごらん。もし何かあった時のフォローは私たちがするから。」っていう先生たちの、「すごくこの人は何かやりたいと思ってる」っていうことに対する、開拓者への励ましというかバックアップ体制は抜群だったの。だから私は全家庭にプリントを作って「ぜひともこれをやりたい!お預かりしているお金では教材費は出ませんので、すみませんが買ってください!集めます。」って上下2冊の本を買うお金を全家庭から特別に集めて入れていただいて。すごく分厚い上下2冊で、頭が痛くなるような本なの。それを買ったのが中3になる春休みだったんだけど、きちっとみんなで読み終えて、本当にその授業ができたのが1年越しぐらいって感じかな。それを授業でやれたのは、その単行本の時の一代だったんですけども。その後は自由に選択授業で扱ったりしたことはあったんですけど。それを授業で扱った代の人たちの中で今の、この学校の先生になってる人もいるんだけれども。「ワイルド・スワン」ユン・チアン(本)

    釘嶋:わー!

    椎野先生:忘れないんだって、その苦痛さ、大変さ。(笑)ものすごく批判はあったんですね。そんなふうに教材を作り、そして中2や中3でまだ社会の授業でもこの本に出てくるような中国の悲惨な歴史を学んでないのにって。

    釘嶋:すごく高い学費も払ってるのに、その上で教材を買い足すなんて、「またかい!」ってなりますね。確かに。

    椎野先生:そうそう。でもやっぱりそうやって信念を持って何かをやろうとしている授業の計画に関しては、今度は私たちが「やってごらん。」っていうふうに言わなくちゃいけない年齢になってますよね。そういう学校の体質は脈々とあるなと思います。

    釘嶋:先生から生徒に対しても同じですよね。

    椎野先生:そうそう。

    釘嶋:先生だけではなく。

    椎野先生:だから私の一番好きな皆さんへの宿題は真っ白い紙です。(笑)

    釘嶋:あはは。それが一番大変なんですって。(笑)

    椎野先生:白くて枠もなく、穴埋めでもなく。この白い紙をあなたが自由に埋めるのよって言った時に「自由にやっていいんですか?」って喜ぶ生徒に育てたい。なかなか難しいですね。時代が今そうではないのでね。

    釘嶋:私が感覚として面白いと思うのが、先生はすごく近くにいるわけじゃないし、すぐ反応するわけでもなく、ジーっと見ている感じもない。でも大きな枠の中に私たちがいて、先生はちょっと離れたところから見てくれて。さすがにその一線を超えたら危ないっていう時だけ声をかけてくれる感じ。縛られてない、泳がせてくれるっていうのが面白かったです、すごく。高校になるとその枠がさらに広くなるんですよね。大学に行けばもっと広がって、大人になれば無くなって。でも学校に戻ってくると、その枠を自分の今いるところと照らし合わせてみて、「あ、なんか私の位置危ないかも。」って戻ったり。附属だけど中

    高があまりつながってないじゃないですか、この学校って。でも日本女子大の一貫教育はつながってるんだなって友人の話を聞いてると思います。

    椎野先生:釘嶋さんの核の部分に、中学・高校時代をここで過ごしたっていうのがあるのね。

    釘嶋:あります。

    椎野先生:一生あるなと思いますよ。そういう自負を持ってる学校です。

    釘嶋:はい、確かにそうですね。私はここで育ったって。

    椎野先生:そうそう。多分日本女子大学のそうした核は、全部緑に囲まれた自然豊かな中で6年を過ごしたっていうところにあるかなと思うので。

    釘嶋:ありがたいですね。よかったです、この学校に入れて。(笑)生徒の特徴は自由を喜べるところ。学校の先生の好きなところも自由を喜ぶところ。

    椎野先生:少し自由度の高い枠の中で信頼してるからですね、それは。生徒を信頼しているが故に少し大きめの枠の中で育っていると。さっきあなたが大人になるとその枠は無くなるって言ったんだけど、その枠を自分で作れるようにね。

    釘嶋:あ、頑張ります。

    椎野先生:そうした自分の活躍するステージやものの見方を、大きな枠を持ってる人っていうのは、他の人を認める自由度も高いんですよね。「アンネの日記」を授業でやった時の解説の言葉に「はい、マーカーチェック!」って言ったことがあるかもしれないんですけれども・・・。いわゆる他人への不寛容が人種差別やナチスの思想に発展していったって思った時に、自分自身を一生懸命豊かにしていこうと本気で考える人は他者の豊かさも認めていく。

    「アンネの日記」アンネ・フランク(著)

    釘嶋:今の社会に求められてることですね。

    椎野先生:うん。だから小さな世界に生きていると他者に対して寛容になれなくなる。それは枠が小さいから。その枠をもっと大きく。私たちは国語・社会・数学っていう教科を教えてるんじゃなくて、ここは人間が育つ場所なんだっていうことを大事にしたい。その一つの方法として、教科という入口で生徒と出会ってるっていう感じですね。

    釘嶋:すごいですね。改めて先生の考えを聞く機会が今までそんなに無かったです。

    椎野先生:そういう学校と思って来て下さるといいですね。こんな大自然の中でどの部屋からも緑が見えて。こういうところで深呼吸一つすることが生きていく財産になる。在校中はわからないけど、卒業すると「あ、こういう森の中で育ったんだ。」って帰ってきた時に思ってくれる。そして、「さあ頑張ろう。」ってまた戦いに出て行けますよね。

    釘嶋:はい、頑張りますよ。

    13. 大学に行くとどんな良いことがあるのか

    釘嶋:これ自分のためにも聞きたいんですけど。「大学に行くとどんないいことがありますかね?」って生徒から聞かれたらどう答えますか?

    椎野先生:大学進学ってことですね。またさっきからの繰り返しになっていくんですけども、やっぱり広い世界を見るための自分の目と方法っていうものを手に入れるためには大学に行ったほうがいいと思います。ものごとの入口や枠は中学・高校の勉強で捕まえられるかなって思うんですが、それだけじゃないですもんね。本当の意味の奥深さを知っていく時に、専門分野の追究を、自由度の高い色んな人と出会える場所で4年ないし6年ないし体験できることは本当に大事だと思います。大学に行くことが許されている環境にいるみんなだったらば、後はもう自分が努力するしかない。本当に勉強に励んでほしい。学びは本当

    にそこからです。「あ、本当に学んだのは大学からだな。」と思って社会に出ると、私が教員になってから初めて学んだように、実社会に出たときに、「本当に学ぶってこういうことだな。」っていうのがいっぱいつながってますので。大学はそのためのたくさんの方法や実感を提供してくれる場所かなって思います。

    釘嶋:その提供してくれる手段をなるべく落とさず自分に必要なものを一つずつ取っていきます。

    椎野先生:それが当たり前と思いますけども、その中で自分が何を選ぶかっていうところに・・・。

    釘嶋:そうですよね、自分から動いていかないと気づかないこともありますしね。

    椎野先生:うん。常に降ってるんですよ、色々な刺激は。だけど気づかない。中3の時に吉野弘の「生命は」という詩をやったんだけど。他者と自分は満たされている関係でなくてもいい。だけどそれを気づかなくてもいいっていう詩をちょっと選んで見てくれるといいと思うんですけども。お互い補い合ってる関係であることに気づいてることも大事だし、気づかないことも、その自由度もまた世の中が成り立っている証なんだよっていうのがあるんだけど、そういうことを大学はもっと教えてくれるかなと思いますので。

    「生命は 吉野弘詩集」吉野弘(著)

    釘嶋:大学生活もあと3年間。時間あるようで・・・。

    椎野先生:時間があるから余計にあれもやりたい、これもやりたいって今思ってるでしょ。

    釘嶋:今、大学1年間海外留学するのを目指して、ひたすら勉強してます。それもあるし、ゼミ活動っていう色んな学部の生徒が集まって勉強する機会があって。本当に大変なんですけど、やってみようと思ってこの前面接を受けてきた次第でございます。ハキハキとしゃべってきたので。

    椎野先生:頑張ってると思います。

    14. いじめへの対応

    釘嶋:いじめが発覚した時に、まず最初にどんな対応をしますか?

    椎野先生:とにかく両者に、どういう思いで何があったのかっていうのをとことん聞きます。でもその意味では話し合ったり聞いたりすることの好きな学校、そうした土台が毎日の生活の中にある。それからさっきの叱るべき時にはきちんと叱るっていうので。

    あとは、いじめの防止や怒った時の対応に関する素案を必ず作らなくちゃいけないんですよ、学校は。学校いじめ防止基本方針というのがあって、もちろん文部科学省からの通知などがあってそれを参考にしながら考えていくんですけども、考えた時に何も困らなかった。なぜなら成瀬仁蔵先生の教えとか日頃から言ってきたことを全部確認するとこれになっていくんですね、私たちの学校は。創立者の成瀬仁蔵先生の掲げた三綱領は「自己の可能性を徹底的に追求しそれを社会で活かしていくこと。私が私であることの尊重です。その教えのもと本校の生徒は私が私であることの尊重が、あなたがあなたであることの尊重にほかならないことを学んでいます。」となっています。だから、素案は結構あっという間にできました。それは本校にそれが根づいてるから。だからといって本校にいじめが全くありませんなんていう絵空事は言わない。なぜならそれはこれがつらいなって思ったらもう、それをいじめだと考えるのが今の世の中です。悲しい思いをした側に立って物事を考えていくっていうのが基本なので。やっぱり女の子がこれだけ集まっている学校ですから行き違いもいっぱいありますし、意見を大事にしようっていう学校ですので。バーって言ったら・・・。

    釘嶋:対立がね。

    椎野先生:傷つく生徒もいるかもしれない。でもその言い合いなくして次の解決や本当のお互いの理解はできないと思っています。私たちのいじめに対する基本姿勢は本当に学校の精神を考えればすべてが解決できる。例えば自治活動で生徒が話し合って、「あなたの立場はどうなの?」とか、スピーチでは「あなたの宝物を教えてください。」って言って、それぞれが夢中になってることにスポットを当てて話す機会がある。仲良しの意見の合う者だけがつるんで楽しいねってカプセルを閉じている、そうではない授業が毎日ある中で、私とは考え方も育ち方も違う、まあ大きく言えば私立の学校だから似たような人たちが集ま

    ってるけれども、それでもやっぱり一人ひとりの考えが自由に述べられる場所が山のように提供されてる学校だからこそ、お互いを認めていく姿勢の土台はできていると思うので。もし起こったとしても問題解決の方法はどの教員もちゃんと持っているというか。チームを組めるっていうのが本校の、「もしいじめが起こったらどうしますか?」っていうことへの答えになるかなと思います。

    釘嶋:これ(いじめに対する素案)をちらっと見る限り、普段教えていただいてたことが書いてあるっていう感じです。

    15. 自分の子供も勤務されている学校に入れたいと思うか。

    釘嶋:自分の子どもも勤務されている学校に入れたいって・・・

    椎野先生:はい、入れたいです、とても。

    釘嶋:理由を教えてください。

    椎野先生:理由は人が育っているから。そして、そういう先生たちのお嬢さんがいっぱい入っている学校です。ただ私に関して言えば娘と私の関係の中で、入れていなくてよかったかなって思ったりもしますけれども。(笑)でも基本的には本校の先生たちはみんな自分の娘はここで育てたいって。

    釘嶋:時々いらっしゃいますもんね。

    椎野先生:うんうん。

    釘嶋:先生の娘さんとか。私の先輩にいました。

    椎野先生:歴代の先生のお嬢さんたちを担任してきましたので。

    釘嶋:親子で先生に見てもらってる。面白いですよね。

    椎野先生:うん、ありがたいことですよね。今年も1年生を教えてるんですけども、私が教えた卒業生がお母さんになってたくさん来て。授業参観週間だったんですけども、この1週間ぐらい。誰よりも先に来て座ってて、中学生以上に熱心に授業を受けて帰ってくれました。(笑)

    釘嶋 結生
    卒業生
    中央大学法学部1年 釘嶋 結生

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