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    教育図鑑
    編集部

    2016-11-21

    インタビュイー:地学科 田中舘宏橘先生

    インタビュアー:教育図鑑編集部 田口亮太

    1. 先生になった理由

    田口:先生になった一番の動機を教えていただけますか。

    田中館先生:私は教員になって、今年で8年目です。その前は地質調査関係の会社で、地質コンサルタントを10年勤めました。

    動機についてはちょっと話が長くなりますが、サラリーマン時代は災害に関する仕事が多かったんです。私が新潟の北陸支店に勤めている間に中越地震が起きて、地震の怖さを目の当たりにしました。実際に山の中で調査しているときに、震度6の余震に襲われました。地面っていうのは本当に柔らかいんだなあと、そのとき実感しました。

    編集部A:中越地震って、NHKでドキュメンタリーがありましたよね。

    田中館先生:はい。小さい子どもが崖崩れの中から救出されたという、あの地震です。

    私は、中越地震で地球っていうのは固いようで実は柔らかいんだということを体感したんですよ。首都圏では昔から関東大震災が再来するとか、東海、東南海、南海地震が来るとか、いろいろ言われています。30年周期で地震が起きる確率が何十%だとかと言われている割には、実際に住んでいる人たちにあまりに危機感がないと思うんです。地震に対する想像力というんですか。でも実際に地震が起こると、私みたいな地質に携わる者たちが忙しく働くことになります。それ以外の人たちも、たとえば物流とか、行政の人もそうですし、ほとんど皆が総力をあげて復興に携わらないと、なかなか立ち直れない。それこそ総力を挙げて災害に立ち向かうことを体験できました。

    そういったなかで首都圏は、地震に対する認識がまだまだ低いと思いました。では、どうすれば危機感を持ってもらえるような地震の知識を伝えられるのか。もちろん、そのまま地質コンサルタントで働いていれば実際に自分の手で復興に関わることもできますが、それよりもっと知識をいろいろ伝えていかなければいけないという気持ちになりました。

    啓蒙が必要なのは大学じゃなくて、初等中等教育ですよね。中学校で中学生に向かって、あるいは小学校で小学生相手に地震の話をたくさんすれば、じゃあ僕が将来大人になったときに復興に携わろうとか、または災害に強い街づくりをしようとか、そういう気持ちを持ってくれるのかなと思いまして、そこら辺から教員という視野が芽生えました。

    編集部A:なるほど、そうだったんですね。

    田中館先生:ええ。中越地震が教員を目指すことになった一番の大きな理由です。

    田口:ちなみに、大学のときに教職課程は取られていたんですか?

    田中館先生:はい、実は博物館で働くのが一番の夢でした。

    博物館の学芸員になりたくて、在学当時、教授にどういった人が博物館で働いているのかを聞いたんですよ。そしたらいきなり、博物館は毎年コンスタントに人を取るわけじゃないと言われました。それで学校の先生をしながら勉強を続けて専門分野に詳しくなって途中入館する道もあるから、教職を取るのは損じゃないぞという話を聞いて教員免許を取っていたんです。とはいえ、10年も塩漬け状態(笑)。まあ、そんなことから教員の道もあるなあーと思いました。

    編集部A:なるほどですね。特に、初等・中等教育、小中学生に対して教育を行おうと思われたのはどうしてですか?

    田中館先生:そうですね。大学生ですと、もうだいたい道は決まっているわけですよね。

    編集部A:はい、そうですね。

    田中館先生:大学で理系の、それこそもしかしたら地質系志望の子たちに教えるのはもちろん楽です。そういう学生はみんな興味を持ってくれると思いますけど、人数的に限られるわけですよね。だったら高校生ならどうなのかというと、もう文系志望か理系志望か決まっていますよね。だから一生懸命に話しても、いや俺文系だしみたいに逃げられてしまう。もちろん文系の生徒も事務方などで復興に携わらないといけないと思うのですが、それだったらまだ白紙状態の中学生に話をしたいと思いました。

    編集部A:なるほど納得です。初等中等教育を広く啓蒙と捉えた意識なんですかね。

    田中舘宏橘先生


    2. 尊敬できる先生

    田口:これまでに習って来たなかで、尊敬できる先生を具体的に教えていただけますか。

    田中館先生:私が小学校5、6年のときに担任をしてくださった先生です。一般的にはたぶんかなり厳しいタイプの先生で30歳前後くらいの若い先生でした。今振り返れば、おそらく理科が専門の方だったと思います。その先生は毎週土曜日の放課後に、科学教室を開いてくださいました。私も申し込んで、毎週土曜日にいろいろと楽しい理科の実験などをさせてもらいました。

    そんなふうに生徒の興味を掘り起こすようなところのある先生でした。それから生徒指導の面でも、駄目なものは駄目だとメリハリある指導をなさっていました。だけど、生徒がこういうことをやりたいと言ったら、最大限にそこら辺を伸ばしてくれる先生だったので、とても印象に残っていますね。

    3. 教員になった直後と現在で変わったこと

    田口:教員になった直後と、現在とで、先生ご自身で大きく変わったことはありますか?

    田中館先生:まだ8年しか経っていないので、そんなには変わっていないつもりではいるんです。ただ生徒たちが間違ったことをするときには必ず理由があるんじゃないかと思いますね。

    田口:はい。

    田中館先生:生徒から、その理由をしっかり聞いてあげるのが大事なのだと思います。だから、たとえば生徒が怪我をしている、していないというケースが起きた場合、生徒の身体も大事なんですが、どうしてそうなったのか、まず経緯をしっかりと聞くようになりました。頭ごなしに叱るんではなく、最初にどうしてそうなったのかを丁寧に聞くように心がけています。

    田口:なるほどですね。わかります。男子って、自分から言うのってなかなか苦手だったりすると思うんです。

    田中館先生:そうですね。

    田口:聞いてあげないと、難しいですよね。

    田中館先生:ええ、そうなんですよね。口が達者な生徒と達者じゃない生徒がいて、そうすると達者な生徒がうまくこう、なんていうんですかねー(笑)少し話を変えながら、自分寄りの話をしちゃいますからね。それでちょっと割を食ってしまう生徒もいます。なので、それぞれから丁寧に時間をかけて話を聞くということになりますね。

    4. 好きな本・影響を受けた本

    田口:好きな本、影響を受けた本を教えてください。

    田中館先生:私は昔から天文、化石、気象の地学関係が好きだったんですけど、なかでも関つとむさんの「星空の狩人」という本があって、その本には彗星を発見すると、第1号発見者の名前がつくということが書いてあるんです。

    田口:はい。

    田中館先生:だから新彗星を発見するまでの苦労が書かれた本を中学2年生のときに読んで、さらに星空に興味を持ったんです。そして自分の好きなことには当然苦労が伴うんだなっていうことも知りました。それで次の年かな、自分で反射式の鏡の天体望遠鏡を作ったんです。鏡だけは自分で作れませんから、買ってもらって、

    あとはホームセンターで木材を自分で買って、本を見ながら作りました。

    田口:ほう、それはスゴイですね。

    田中館先生:いろいろな原理を書いている本を見て作りました。そうやって作った天体望遠鏡で土星の環を見たり、月の表面を見たり、火星や金星を見たときはやっぱり感動しました。

    編集部A:それは、中2か中3のときですか?

    田中館先生:中2と中3の間ぐらいの冬から作り始めて、夏明けぐらいに完成したと思います。だから、ほんとはもう受験で忙しい時期なのに、そんなことをしていました。そこら辺は親もここまで勉強しなさいっていうのがあったと思うんですけど、そういう記憶がありますね。

    田口:すばらしいですね。ありがとうございます。

    『星空の狩人』関つとむ

    5. 大学に行くとどんないいことがあるか

    田口:「大学に行くと、どんないいことがあるか」と生徒から聞かれたら、先生はどう答えますか?

    田中館先生:そうですね。やっぱり、自分の好きなことばっかり(笑)。好きなことをとことん勉強できることだと思いますね。私はもう、それがとっても楽しかったんです。

    さっきも言ったように、私は天文も好き、気象も化石も好き。なのに専門分野を絞らなきゃいけなかったのが、すごく残念でした。(笑)でも、地質学をとことんやることが出来て、ほんとに楽しかったですね。

    田口:なるほど。

    田中館先生:勉強嫌いな子どもでも全部の教科が嫌いなわけではなくて、1つ、2つは楽しいとか興味を持てる科目があると思うんです。だから大学に行ったら自分のペースで、自分の知りたいところまでとことん勉強出来るんだよってことは、よく言っています。

    田口:なるほどですね。実は、僕も大学でやりたいことが見つからないまま行ったタイプなんです。

    田中館先生:うん、よくわかります。

    田口:高校3年になっても、そうした生徒っているかもしれないと思うんですけど。そうした生徒さんには、どういう指導をされますか?

    田中館先生:そうですね。たとえば勉強ではなくても、自分の私生活や趣味には興味を持てるものがあると思うんです。それを掘り下げて考えたときに、入ってしまった大学のなかに趣味や興味を極める道があるんじゃないか、または自分の好きなことを職業にできる道が自分の大学にあるんじゃないかと、そこら辺の選択肢の幅が増えると思うんです。

    だから私にとって地質学、地学を勉強する意味では大学進学が目標であり、その先に職業へ続く道がなんとなくあると想像していました。ただ目標が決まっていない生徒は将来何になりたいのか、職業的な意味で将来どんな道を見つけるのかが、考えどころだと思います。でも実際はなりたい職業もなければ、やっぱり自分の好きなことって何だろうから考え始めるんだろうと思いますね。

    田口:なるほどですね。

    編集部A:先生は、ずっと一貫されているじゃないですか。興味があって、就職した会社も地質学関係で。

    田中館先生:はい。そうですね。

    編集部A:先生は興味のあることをお仕事にされてきて、教えるという方向に変わってからもずっと一貫されていると思うんですね。どうして先生は地学に興味を持たれたのですか?

    田中館先生:地学のなかで一番、最初に好きになったのが星だったんですよ。私には兄が2人いるんですけど、その兄たちの影響があるのかもしれません。冬の星座で、オリオン座ってあるじゃないですか。幼稚園の頃でしたけれど、星座は図鑑とか天体望遠鏡がないと見えないと思っていました。ところが兄たちと一緒に星を見ていたとき、兄が「ほら、あれがオリオン座だよ」と教えてくれたんです。図鑑でしか見たことがなかった星座がものすごくおっきく夜空に輝いているのを見て、ある意味とても感動しました。ああ、あんなに大きいんだあと、そんなところから地学に興味を持ちました。兄も地学が好きなので、そこら辺からも少し影響されているのかもしれませんね。

    編集部A:なるほど。ご自身が専門分野を決められたのはいつ頃ですか?

    田中館先生:うーん。広い視野で見ると、高校のときに学芸員になりたいと考えたときかなあ。ただもっと前から、恐竜も好きだったし、よく博物館や上野科学博物館に行っていました。

    編集部A:はい、よくわかります。

    田中館先生:博物館とかに行くと、ここより先は関係者以外立ち入り禁止っていっぱいあるじゃないですか。その先には何か面白い物があるんじゃないかと、私なんかは子ども心にそう考えちゃうんです。

    編集部A:はは、なるほど(笑)。

    田中館先生:貴重な物があるんじゃないのかなとワクワクした経験があって、博物館のようなところに入りたいと憧れていました。

    編集部A:たしかに、貴重な物がなかにありますね。

    田中館先生:ええ。それだったら博物館で働けばいいんだなと漠然と考えていて、それに該当する職業が、高校のときに知った学芸員でした。そこら辺からです。地学に進もうと思えば、進めるんだなと思ったんです。

    6. 中高一貫校にあって一般の中学校にないもの

    田口:中高一貫校にあって一般の公立中学校にないものといったら、なんでしょうか?

    田中館先生:それはやっぱり卒業してからも、卒業生間の距離が近いことですかね。それに尽きると思います。教員と生徒の関係で見ても、近いですからね。

    田口:はい。

    田中館先生:卒業してもすぐに会えますし、またさらに卒業しても、大学まで行っても、キャンパス内で「お久しぶりですー」と再会できますからね。

    田口:おー、そうなんですよね。

    田中館先生:大きくなったねとか、卒業後の成長過程も見られます。だから中学時代はパッとしない生徒でも言葉づかいも態度も共に立派になっていたりします。けっこう手を焼いたなっていう生徒も(笑)。こんなに成長するんだと実感できますので、それは教員として幸せだなと思います。

    編集部A:なるほど、そうですね。

    田中館先生:生徒目線で見ますと、中学校の友だちがそのまま高校、もしかしたら大学まで一緒ですので、いわゆる親友になるんだろうなという気はしますね。

    私は中、高、大とみんな公立でしたから、中学校の友だちとは今はほとんど連絡を取っていません。年賀状すら交わしていないところもあります。なので、中高一貫とか、中高大一貫というのはいいんだろうというふうに思いますけどね。

    編集部A:そうですね。ほんとに、私もうらやましいです。

    田口:そうですね。

    田中館先生:はい。まあそういったところですかね。

    7. 貴校にあって他校にないもの

    田口:今度は、学習院にあって、他の私立にないものとは何でしょうか?

    田中館先生:そうですね。私は理科の教員なので、どうしてもその視点になってしまうのですが、やっぱり本物に常に触れさせることが出来るというところだと思います。地下に標本室がありまして、そこを開けて持ってくることができます。たまたまここに標本があるのですが、全部本物の鉱物や化石です。

    田口:おー、すごい。

    田中館先生:本物の標本に触れます。それに1歩外に出ると、キャンパスは理科の素材にもってこいの広大な敷地です。坂や崖、池もありますので、そうした意味ではすごく学習院らしいキャンパス環境だと思いますねー。

    田口:素晴らしいキャンパスですものね。

    田中館先生:まあそういったなかで歴史もある学校なので、文化財として遜色のない建物もあります。そんな素晴らしいキャンパス環境のなかで、なんて言うんですかね?いろいろと専門的な知識に小さい頃から当たり前のように触れられる教育環境ではあるかなと思いますよね。

    8. 勉強以外で一生懸命取り組んで欲しいこと

    田口:学習院中学に合格した子どもたちに、勉強以外で一生懸命取り組んで欲しいことは、どんなことですか?

    田中館先生:勉強以外のことといったら、やっぱり部活動になってきますね。どうしても最近の子は、ゲームや表面的な楽しさ、手軽な楽しさに手を伸ばしちゃうとこがあります。なので、苦労して仲間と一緒にスポーツで勝利を挙げるような厳しいなかにも行く先になにか楽しい充実感が得られるようなことに、力を入れてほし

    いなーと思いますね。

    田口:なるほどですね。

    田中館先生:だからそこに展示している恐竜を作るのは、すごく大変なんですよ。あれはもともとパネルに入っていまして、型抜きする前のものをA3くらいの大きさにコピーして、それをさらに5倍から10倍の図が描けるパンタグラフという拡大機にかけて模造紙に部位を書いていきます。その模造紙をハサミで切って、切ったパーツを発砲スチロールの板に並べて、さらに発砲スチロールカッターで切って、それに着色して組み上げていきます。この作業にものすごく手間暇がかかります。大きすぎたとか、狭すぎて入らないとか、いろいろな失敗をその都度修正しながら完成させると、すごくもう、やったー!みたいな感じになるんですね。

    田口:どのくらいの期間で作り上げましたか?

    田中館先生:準備期間がだいたい1週間ぐらいですので、1週間で完成させました。その集中力が、すごいですね。生徒たちは発泡スチロールカッターがすごく好きで、こうやって集中してひたすら切っていました。今日も明日もずっとやりたいみたいなそんなかんじでした。すると、だいたい職人みたいな生徒が出て来るんですねー(笑)。

    田口:なるほど。

    田中館先生:生徒たちだけで、こうやるんだよとか、これはだめだとか、そんなかんじで作業していました。だから私はあの模型については、ほとんどもう口を出さずにすみましたですね。

    田口:おおー、スゴイですね!

    田中館先生:なんていうんですか。もう、伝統みたいなかんじです。

    編集部A:あの模型は、ちなみに何年前の人たちが作ったのですか?

    田中館先生:あれは4年前のものです。このティラノサウルスが2代目。初代はもう壊れちゃって。それからここら辺にぶら下がっていたんですが、トリケラトプスもここに大きいのがあったんですけど、風かなんかでやっぱりだんだん揺れて落ちちゃってですね、今、その頭だけがここにあります(笑)。

    編集部A:あの模型も、後ろがあったわけですね。

    田中館先生:ええ、だいたい3mぐらいの大きさでしたかね。

    編集部A:それは見たかったなー。

    田中館先生:そうですかー。

    編集部A:これは地学部の作品?

    田中館先生:地学部の文化祭の作品です。

    編集部A:はあー。じゃあ放課後に1週間で作ったってこと?

    田中館先生:はい、そうです。

    編集部A:ほうー。

    田中館先生:毎日、2時間、3時間ずつぐらい。

    編集部A:なるほど。

    田中館先生:最初はほんと、こんなにいい物が出来るとは思っていなかったんです。それこそ頭だけでいいんじゃないの?と言っていたんですけど、いや出来ますとかやります!みたいなかんじで、こんなに上手なのが出来ました。

    編集部A:頭だけでいいんじゃないんですね。

    田中館先生:やっぱり親というか大人は、頭だけでもいいって思っちゃいますよね。期間を守らなきゃいけないというのと、これくらい出来れば充分でしょうというのがあって、どうしても、線引きをしちゃうんですよね。

    編集部A:そうですね。

    田中館先生:それが駄目だなーと、これを見て思いましたね(笑)。

    編集部A:はははは(笑)。

    田中館先生:教師にできることは「やってみろ」って背中を押すことだけ。もう、それだけでいいのかな!?どこまで出来るかは生徒次第。なにしろ、まかせてみたら生徒たちだけでここまで作ったんですからね。

    地学部の生徒が作った恐竜の模型

    9. 生徒からの印象的な相談

    田口:生徒からの相談で印象的な内容があったら教えていただけますか。

    田中館先生:印象的な相談ですか?うーん、進路のことだったかなー?そうだそうだ、自分にはやりたいことがないという質問がありました。私はサラリーマンも経験していますので、そういった観点からも答えることが出来て、そこだけはほんとにラッキーというか、よかったと思います。

    いままで生徒たちがなにか間違ったことをしたときに、私は丁寧に話を聞いて来ました。そしたらですね、父母面談のときに父母から「田中館先生は話をよく聞いてくれる」みたいなことを家で話していたと言われて、私がやってきたことは間違っていなかったと思いました。だから中学生にとっての自分の道は白紙の状態なので、教員の言葉はすごく責任があるのかなという気がしますよね。

    田口:しますね。

    田中館先生:高校生だったら進路の質問をされるときも、だいたい彼らのなかで2つぐらい答えが絞られていて、どっちがいいですか?という質問が多いんです。だけど中学生の場合は、「僕はなにがいいんですか?」みたいな(笑)。

    選択肢が絞られていたら「こっちがいいんじゃない?」と答えやすいですけど「僕はどうすればいいんでしょうか?」という質問には丁寧に答えてあげなきゃいけない、時間を割いてやんなきゃいけないという気がしますよね。進路の質問はすごく印象に残ります。ほかは留学について「僕は行くべきでしょうか?」という質問ですよね。そうした相談がすごく印象に残るというか、心に留めながら答えていますね。

    田口:はい。それでは一番始めにお話しいただいたケースだと、最終的にどんなかたちで進んで行きましたか?

    田中館先生:「大きくなったら何になりたいの?」と聞き始めると、たいてい「普通にサラリーマンです」みたいな答えしか返ってこないんですよ。

    彼らの普通が(笑)サラリーマンなんです。まあ想定内の答えですから、次にお父さんの職業を聞いたり、「先生は仕事を変えたんだよ」と私の話をしたりと、要はいろんな職業の話をしていくと彼らはけっこう楽になるみたいなんです。生徒たちは同じ仕事を一生続けなきゃいけないのかと、自分のなかで制約を作っているところがあるんですね。だから途中で仕事を変えられるんだとか、2つの道を並行して進められるんだったら両方やってもいいなと、将来についての選択肢の幅を生徒のなかで広げられるような話をします。

    田口:なるほど。

    田中館先生:そういったかたちで「考えればいいんじゃないの?」とか、相談者が中1だったら「まだ決めることもないんだから、お父さんや親戚の人の話を聞くのもいいんじゃないの?」と、そういう進め方をします。

    田口:なるほどですね。

    田中館先生:まずは、いろんな仕事を知ってもらうところが肝ですかね。

    編集部A:生徒を楽にさせてあげるということは、逆に生徒は楽じゃないということですか?

    中館先生:そうですね。やっぱり親の期待もあるし、ある一定の方向に親が誘導する生徒も多いですからね。特に本校はそうしたケースが多いんじゃないかと思います。お医者さんの息子さんが、普通にいらっしゃいますからね。そうすると、子どもは自分の中で「僕は医者になんなきゃいけない」と自然に思ってしまいますから。

    編集部A:なるほど、そっか。そういうプレッシャーもあるんですね。

    田中館先生:たぶんあると思いますね。

    編集部A:そうですよね。可能性を自分から制限してしまう生徒さんもいるでしょうからね。

    田中館先生:あとはだいたいの生徒は、どうせっていうんですよ。「どうせ、僕はできません」って(笑)。

    編集部A:普通に、とか 。

    田中館先生:ええ、それがほんと多いんですよ。だから「学習院の先生はいいよー」と言っても「いやどうせ僕、先生に向いてないし」と返ってきます。

    そうですね。「どうせ、そんな努力はできないし」みたいな「どうせ」が多いです。

    編集部A:そんな生徒さんには、どういうふうにお話をされるんですか?

    田中館先生:自分の経験を話します。職を変えるときには、既に妻がいました。しかも「学習院を受けようと思う」と妻に話したときは、新潟に住んでいたんです。なので仮に学習院に受かったら、東京に出なきゃいけないじゃないですか。だから、たぶん妻もいろいろな葛藤があったと思うんですよ。でも、妻は私に「どうせ受からないんだから受けてみたら?」と、言ってくれたんですよね。(笑)

    編集部A:なるほど。

    田中館先生:その「どうせ」なんですね。私のなかの「どうせ」は、「どうせ駄目なら、全力を尽くしてぶつけてやろう」っていう「どうせ」なんです。

    学習院の教員試験を受けたとき、小論文などがいろいろありました。ものすごいレベルを要求される小論文を短期間で仕事をしながら書き上げて、自分の思う最高レベルの小論文をぶつけました。まあ、そんな話を生徒にします。「どうせ」には、2つあると思うんです。

    編集部A:なるほど、2つの「どうせ」ですか。

    田中館先生:そうなんです。君たちはどうせっていうのが口癖かも知れないけど、どうせと言うんだったら、先生のどうせを(笑)君たちもやってみろって。(笑)

    編集部A:なるほど、そうか。「どうせ」の後の行動ですね。

    田中館先生:いや、どうせの意味合いのほうですね。

    編集部A:すみません、ご説明いただけますか。

    田中館先生:どうせ駄目だから適当にやるのか、どうせ駄目なら当たって砕けろでやるのかをよく考えなさいと、生徒たちには言っています。

    編集部A:そうか。先生はもう1つのどうせを自分の可能性を広げろという意味でおっしゃっているんですね。いわば、自己奮起の「どうせ」ですか。

    田中館先生:あはは、そうですね(笑)。私が学習院の教員になったのは、妻としては誤算だったのかもしれないですけどね(笑)。

    10. 授業で使用する教材について

    田口:どんな教材を使って、授業をしていますか?オリジナルプリントがあれば、それについて教えてくださいませんか。

    田中館先生:教科書は、東京書籍の教科書を使っています。これは1年生の教科書なんですが、文科省検定済みの教科書なので狭い範囲でしか書かれていません。中学生や小学生の男の子は、特に化石や恐竜が大好きじゃないですか。なのに、この教科書で恐竜が出て来るページはちょっとしかないんです。

    田口:はい。

    田中館先生:そう、すごく狭い範囲でしか書いていないということですよね。

    編集部A:狭い範囲ってことですね。

    田中館先生:次は資料集についてですが、資料集もたとえば恐竜のことを知りたいと思っても、ここのページしかないというレベルなんです。これだと、たぶんがっかりしちゃう。ちょうど今中2を教えているんですけれども、生徒たちの大好きな恐竜について書かれているページは少ない。だから、恐竜についても、化石についても、かなりの時間を割いています。

    編集部A:なるほどー。生徒たちが興味のある分野ほど、教科書の扱いが小さいってことですか。

    田中館先生:そうです。では、その理由がわかります?

    田口:いや、知らないです。

    田中館先生:恐竜も、宇宙のこともそうなんですけど、しょっちゅう新しい発見があって学説が変わるんですよ。そうすると、あんまりきわどいことを載せると、教科書をどんどん変えていかなきゃいけない。

    田口:なるほどー。

    田中館先生:たぶんそんな理由だと、私は考えています。だから結局、恐竜についてはあまり触れさせないか、そうでなければ古い考え方のままなんですよ。恐竜についても羽毛が生えている恐竜が主流になっていますが、これも今では古くなりつつある学説です。教科書や資料集には、当然そんなことは書いていません。だから恐竜の色はどうなっているのとか、そういったところからアプローチしてあげたいですね。

    編集部A:昔、僕らの子どもの頃は、恐竜がみんな立っていましたもんね。

    田中館先生:そうですよね。今と昔を比較してみましょうか。実はこれが、私が幼稚園のときに見た学研の恐竜図鑑。これが今の図鑑なんですが、ゴルゴザウルスを見ただけでも、恐竜像がどんどん変わったことがわかります。

    編集部A:ああー。

    田中館先生:それから私が一番好きだったページが、アロサウルスのページです。

    編集部A:死肉を漁るハイエナみたいな恐竜ですね。>

    田中館先生:それは昔の考え方ですね。爬虫類は体温が低いから、獲物を追いかけたり、襲ったりは出来ないだろう。肉食ならば死肉を漁っていたんだろうということで、死肉を漁る絵がクローズアップされました。その絵を見て、私はがっかりしたんですよ(笑)。

    やっぱり肉食恐竜には狩りをして欲しい、戦ってほしいという気持ちがあります。この死肉を漁る恐竜という考え方がどこにあるのかというと、実は1947年に描かれた死肉を漁るアロサウルスの絵が発端です。それが1970年代になっても、まだまだこんな感じの絵です。1980年代ぐらいになってから、恐竜の絵がだんだん活発な絵になってきました。そんな流れを教えると、生徒たちがすっごく面白がってくれます。

    編集部A:そうか。70年代までが古い考え方のままで、80年代から少し変わってきたということですね。

    田中館先生:少しずつ、体の傾きが変わってきました。そして2000年代に入ると、羽毛があるという説もだんだん浸透しはじめました。

    編集部A:はい、それがほとんど主流だっていいますもんね。

    田中館先生:そうですね。今の説ではおそらく恐竜の色は皮膚の色ではなく、もしかしたら羽毛の色かもしれないといわれています。

    編集部A:なるほどー。

    田中館先生:そういったところも、残念ながら教科書には一切出て来ません。

    編集部A:なるほど。

    田中館先生:そこら辺は、やっぱり生徒たちが消化不良を起こしますよね。(笑)

    編集部A:起こしますねー。

    田中館先生:そういった意味では。

    編集部A:なるほど。化石採集の授業はあるんですか?

    田中館先生:化石採集に生徒全員を連れていけないので、部活動で月に1回程度の頻度で行っています。ただ化石をスケッチしようという授業は、今週やっています。

    編集部A:はい。

    田中館先生:本物の化石をこういう感じで。

    編集部A:三葉虫も採れるんですね。

    田中館先生:いえ、これは。

    編集部A:違うところで。

    田中館先生:これは購入品です。生徒全員分の三葉虫とアンモナイトを買いました。化石と言えば、生徒たちはここら辺に食いつきますから。その三葉虫やアンモナイトを観察してスケッチさせていますね。

    田口:ふーん。

    田中館先生:新宿で、ミネラルフェアを毎年やっているのをご存じですか。

    編集部A:紀伊國屋のとこですか?

    田中館先生:いや、違います。えーと新宿都庁近くの高層ビルの一画にホールがあって、そこに世界中から化石や鉱物を売るバイヤーが集まるんですよ。

    編集部A:へー。

    田中館先生:日本人もいますし、海外の人もいます。そこでこういうモノが安く売り買いされていますので、そこで買って来たモノです。

    編集部A:買いつけて来られるんですか?

    田中館先生:そうですね。

    編集部A:へー!

    田中館先生:ミネラルフェアへ、地学部の生徒と一緒に行くんですよ。

    編集部A:そうなんですか。

    田中館先生:はい。地方の生徒も自分のお小遣いを持って、ミネラルフェアでお目当ての鉱物を買って楽しんでいます。生徒の欲しい鉱物を売っているバイヤーが外国人だと、英語を一生懸命駆使して交渉していますよ。

    編集部A:おー!

    田中館先生:値引きもしてくれるんですよね。

    編集部A:なるほどー。

    田中館先生:だから一生懸命英単語を駆使しながら、もうちょっと負からないかと、生徒なりに伝えてディスカウント交渉をするんです。バイヤーさんは相手が子どもだとものすごく喜んで、たとえば1500円の鉱物が800円に値下げされたこともありました。

    編集部A:へー。

    田中館先生:生徒がものすごく喜んで「先生ー!これ1500円が800円になりました!」と(笑)もういちいち報告に来てくれる、そういうイベントなんです。

    編集部A:それは、いいですね。

    田口:なるほどー。

    編集部A:ちなみに、1年生は恐竜や化石で興味を広げていくってかたちですか。

    田中館先生:はい。

    編集部A:2年生から3年生になると、興味の示し方がどんなふうに変わって行きますか?

    田中館先生:本来、私は化石も恐竜も気象も天文も好きなので、それらのどういったところが楽しいのかはわかっているつもりです。そこで私自身の過去の記憶を辿りながら、興味をつなげるようにしています。

    気象だったら、モニターにヤフー天気の「今日の天気という天気図」を出して、天気図がこうだから明日は多分寒くなるよとか、そんな解説をしています。そして次の週ぐらいに「あのあと、翌日どうなったか覚えてる?」とか、「いや、寒くなりました」みたいなそんな話から、生徒たちの生活に気象の興味をつなげていくようにしています。ふだん生徒たちが当たり前のように見ているテレビの天気予報と、プリントや教科書を結びつけるところに気をつけた授業をしています。そうすると、自分の勉強したことがすぐに天気予報に役立つと、生徒自身が気づけるようになります。

    教科書で恐竜についての記述はこのページだけ。恐竜が好きな生徒たちは消化不良を起こしてしまうため、補助教材で補うのだそうです。


    学研の恐竜図鑑


    恐竜博2011:学研の恐竜図鑑と比べると、恐竜像はどんどん変わってきたことがわかるとのこと


    死肉を漁るアロサウルス:1947年に描かれた絵が発端で死肉を漁るというイメージが定着してしまった


    授業では本物の化石を使用


    11. 日々の生徒の観察

    田口:生徒の観察は、日々どのようになさっていますか?

    田中館先生:担任をしていれば、授業が終わったらすぐに教室を覗きに行きます。すると実際に伝わって来ますし、他の生徒も教えてくれます。あと、部活動もよく見るようにはしていますね。というのは、教室の机で見せてくれる表情と、部活動をやっている表情が全く違うんですよ。

    教室で一生懸命机に眠い目をこすりながら授業を受けている生徒が、大好きなサッカーをやりにグラウンドへ出ると、ものすごく生き生きしています。そんな意外な面を見るのが、けっこう好きです。おー!この生徒は本職をやるとこんな感じなんだと安心します(笑)。逆に、あれ、いつも生き生きしているのに、生き生きしていないなとか、そういったところを見ています。

    田口:担当していない部活動も見に行くということですか。

    田中館先生:そうですね。全部くまなく見るわけじゃないんですけど、校舎の上から見たり、移動のときにどうしているのかと様子を見ますね。特に自分が担任を持っているときは、担任クラスを中心に見ます。今は担任を持っていないんですけど、この生徒は授業中に今日はだるそうだったということが、校舎の上から見るとけ

    っこうわかります。そういう意味では、ちょっと違う面を両方見るのは大事なことだと思いますよね。授業だと本当にいつもだるそうな子が、部活になると生き生きして、ああ!これがこの子の普通なのね(笑)みたいな、そういうのは分かりますよね(笑)。

    田口:なるほどなるほどー。先生と生徒の間で日々、ノートのやり取りみたいなことってあるんですか?学校によっては、交換日記みたいなやりとりをよくやっているところもあるのですが。

    田中館先生:個別の生徒相手に毎日ということは、あまりありません。ただ要所要所で悩みがありますかとアンケートを取ったり、あとは本校には主管室というのがあって、その主管室と教室との距離が近いので、毎日何回でも教室に行っていますね。

    田中館先生:なるべく声をかけるとか、そんな感じです。やっぱり直接会うことが大事かなとは思いますよ。

    田口:なるほどですね。

    田中館先生:そうすると、生徒たちも主管室を通じて、教員との距離感が縮まってくるんで、向こうから「すいません、ちょっと人には聞けない話があるんですが」みたいにちょっと悩みを向こうから打ち明けて来るようになります。

    田口:なるほどですねー。

    編集部A:アンケートは、どのくらいの期間でされるものなんですか?

    田中館先生:だいたい1学期に2回かな?大きいテストのあとに実施しますね。そうすると、試験の結果と生徒の心の調子と家庭の様子がやっぱり密接にリンクしていますので、なにかしらの信号を察知することができます。たとえばずーっと点数がよかった子がガターンと落ちると、それはなにかの信号だろうと・・・。

    編集部A:信号が出ているんですね。

    田中館先生:そうです。出て来ますね。

    編集部A:アンケートは生徒だけですか?それとも、親御さんからも取られるんですか?

    田中館先生:基本的には生徒からです。ただ親にもサインしてもらったりしますので、親にもちょっと目を通してもらうときもあります。そういうアンケートです。だから生徒たちは、親に見られるから書けないということもあるんですよね。なので親に見せなくてもいいアンケートもありますので、それには生徒が人に言えない

    家の事情などもたまに書いてきたりすることもあります。

    主管室:学年ごとに主管室というものが置かれている。教室との距離が近いため、担当学年の様子を把握すること、それから生徒が相談しやす


    主管室内の個別相談スペース


    12. いじめへの対応

    *田中館先生:本校の場合は、ちょっとしたからかいならあると思うんですけど、大きくならずに済むシステムになっていると思うんです。先ほど言った主管室には教員が5人います。この5人で対応するので、チーム対応といえると思います。

    実際に主管室の5人が、担任しているクラス以外のいじめトラブル等を全部把握しています。なので他のクラスの親からいじめに対してなにか連絡があったときでも、私は担任じゃないのでちょっとわかりませんという答えはまずないです。ですからそんなときは「私も聞いていますので話をしておきますか」とか「今、緊急で対応します」というふうに、すぐに応じれるのが主管室なのだと思います。

    編集部A:なるほど、ひと学年5クラスの生徒に5名の担任ですか。

    田中館先生:そうです。その5人がチームなのだと思います。そこでもっと大きな問題になりそうなときは、生徒課のほうに情報を入れておきます。

    編集部A:うーん。

    田中館先生:小さなトラブルのうちは主管で対応していますという感じで、やりますね。

    編集部A:生徒が担任の先生以外にも相談は出来るんですか?

    田中館先生:担任以外の?

    編集部A:セカンドオピニオン的な相談です。

    田中館先生:他の先生に?

    編集部A:ええ。

    田中館先生:あ!もちろんできます!たとえば部活動の先生に相談する生徒もいますので。

    編集部A:隣のクラスの先生には?

    田中館先生:それもけっこうあります。

    編集部A:なるほど。

    田中館先生:そうですね、あとはもうとにかく初期段階の対応が大事ですよね。情報を共有するのと、それからどの教員もやっていることですが初期段階で双方から話を聞いています。

    最初は被害者の生徒から話を聞いて、いろんな対応の仕方を考えます。たとえばその生徒に「じゃあ、クラスで先生が注意しようか?」と言うと「いやー、それはやめてください」と言う生徒もいますしね。注意するにしても、本人から相談があったというのがばれると、チクッたことになりますから、そこら辺は先生が見かけたというかちょっとしたストーリーを作って「こんなことも出来るよ」と解決策を提案します。すると「いや、それもちょっと」と、尻込みする生徒もいます。そんなときは「じゃあ、いじめを頭に入れながら先生がしょっちゅうクラスに見に行くから。いじめがあったら、先生がすぐその場で言えるし、もし見えなくても先生のほうからちょっとそういう噂を聞いたんだけど、他の生徒に聞いてもいい?」とか、いろんな対応の仕方を被害者の生徒に伝えます。すると「話を聞いてもらっただけでいいです」「いや、もうちょっと我慢できます」とか「自分で嫌ですって言います」とか、生徒たちはそれぞれの意見を言ってくれます。だからそこら辺ですね。やっぱり「なんでそんなことを言うんだ」と考えたり「俺はそういうことを言われるのが嫌なんだ」と、加害生徒に伝えることも大事だと思います。そこら辺で、生徒たちの成長も必要かなと思いますね。

    編集部A:はい、なるほど。

    田中館先生:それに、もしかしたら相手は悪口を言ったつもりがないことも確かにあることはあるんですよね。

    編集部A:ええ、そんなケースもあるかと思います。

    田中館先生:だからまず被害生徒の気持ちを汲んで、対応策をどう進めて行くのか?被害生徒にいろんなケースを伝えながら、どれで行く、どんなのがいいかな?と、話し合いをします。小さい時点で親にも伝えています。「親に伝えてもいい?」と聞いて「いや、嫌だ」と答えられても、なんとなく伝えることもあります。親御さんには「お子さんは伝えてほしくないって言ったんですが、こんなことが今起こっていまして」と、とにかく早めに伝えています。

    編集部A:親に伝えるときは、生徒にはそれを必ず言うんですか?

    田中館先生:いや、そこはやっぱり信頼関係ですから。伝えてほしくないっていわれれば、伝えないときもあります。ケースによっては、本当に伝えなくていい場合もあると思うんです。

    編集部A:ええ。

    田中館先生:でも、この生徒はすごく我慢をしていて、お家のなかでも変化が出ているのかな?という場合は、親に「最近どうですか?」みたいなかんじで聞きますね。

    編集部A:なるほど。

    田中館先生:すると「なんでそんなこと聞くんですか?」と、返ってくるわけです。そこで「いや、実はちょっとこういうことがあって」と言うと「いや、うちでは大してなんにもないですよ」「私のほうも見てみます」とか「じゃあちょっとおうちでもそういうふうに注意深く見てください」で終わる場合もあります。

    編集部A:なるほどなるほど。

    田中館先生:ええ。そのうち親に相談してみるのもいいよっていう話も、ひとつの方法として生徒に伝えますね。子どもというのは、いろんな人に話を聞いてもらうとやっぱり安心しますからね。

    編集部A:そうですね。

    田中館先生:だからとにかくいろんな方法というか手段をチームで持つ。事例に応じたカードをたくさん持っているというところですかね。

    13. 落ちこぼれてしまった生徒への対応

    田口:落ちこぼれた生徒にはどのように対応しますか?先生方のチームで対応する仕組みはありますか?逆にある部分において、長所がある生徒に対しては、どう対応しますか?

    田中館先生:うーん、落ちこぼれた生徒ですか。数学や英語であれば、能力別に指導しています。または40人学級を20と20にわけて、それぞれに教員をつけて指導すれば、手厚く出来るとは思うんですね。

    ただこの質問は、おそらく担任目線でのことだと受け取れます。担任はやっぱり声掛けですよね。そろそろ準備をしたほうがいいんじゃないのかとか、そういう声掛けをしています。ただし勉強の出来ない生徒は、どう勉強していいのか、その方法がわからない生徒が多いんです。なので自分の経験を話したり、今までの事例を見ながら「こういう勉強の方法がいいんじゃないの?」と指導しています。それから「部活を休ませた方がいいでしょうか?」と聞いてくる親がいますが、それはおすすめではないですね。部活を休んだからといって、勉強をするわけでもありません。それよりも部活をやってメリハリをつけてストレスを発散しながら勉強したほうがいいと思います。そういったところを注意していますね。

    田口:それでは逆に、たとえばすごく数学が得意な生徒さん、秀でた生徒さんには、どういった対応をされていますか?

    田中館先生:あ、たとえば地学にすごく興味がある生徒には地学部に入りなさいと(笑)。地学部に入ると、地学オリンピックの過去問を解いたりすることもあるので入りなと勧誘しています。そういうところで、興味を伸ばさせてやりたいなって気がします。実際、そんなふうにしています。

    田口:なるほど。部活は、体育部と文化部の両方をやることができるんですか?

    田中館先生:はい、できます。地学部には、今、登録だけでいうと100人ぐらいいます。その8割9割がサッカー部と地学部、ラグビー部と地学部、剣道部と地学部とか、そんなかんじで活動しています。生徒によっては剣道部がお休みの日は地学部に来てちょっと化石をいじってみるとか、試合のない日はスケジュールがあいたから地学部の化石採集会に来てみるとか、そんな感じの部活ですかね。

    田口:うーん、いいですねえ。

    14. 人気のある先生

    田口:先生は生徒から人気があると思いますか?

    田中館先生:えっ、私ですか?そうですね、人気はなくはないと(笑)思います。

    田口:ふふふ。

    田中館先生:私の場合は、職業的にラッキーだったのが面白いことを面白く教えられることですね。私は授業で雑談をたくさんするんです。

    田口:はい。

    田中館先生:自分の経験のなかから地学に関する面白かった雑談をたくさんするんです。たとえば一人で富士山の樹海に調査に入って、すごく怖い経験をした話をすると、もう(笑)。

    田口:ふふふ。

    田中館先生:やっぱりそういったところでは、たぶん話が面白い先生だと思われているんだろうなという気がしますよね。

    田口:なるほどですね。では、周りで人気のある先生ってどんな先生だと思いますか?

    田中館先生:教科にもよると思うんですが、やっぱり理科の先生は話上手で面白いとか、実験をたくさんやってくれるとか、そういうところだと思います。数学や英語に関すると、やっぱり教え方とか、わかりやすさなのかなと思います。

    田口:そうですね。

    田中館先生:国語はアンケートを取ると、国語が楽しいって生徒がけっこう多いんです。

    国語については、わかりやすさというよりも国語の面白さに気づかせてくれる授業なのかなと思いますよ。

    田口:ああ、そうなんですね。

    田中館先生:生徒たちに「学習院のどういうところが好きですか?」と聞くと「名物教員が多い」と答える生徒がいて、そんなにキャラ立ちしている教員はいたかなと(笑)、逆に思っちゃいますけどね。

    田口:ははは。一人ひとりが濃いってことじゃないですか?

    田中館先生:そうかもしれないですね。私も熱く(笑)授業するようにしていますしね。

    田口:そうですね。英語の五十嵐先生という方も、松岡修造みたいな方だと伺っています。

    田中館先生:へへ(笑)そうですねー。

    編集部A:英語の先生?

    田口:はい、英語の先生です。生徒から質問されたり、学内で生徒から話しかけられるときも、英語で話をするそうです。

    田中館先生:そうですね。

    田口:それくらい英語に熱血な方でした。

    編集部A:そうなんですか。

    田口:そうです。英語だけじゃなくて、国語も普通にクラスで授業をやっているというよりも、なんだろう。国語なんですけど、授業で判じ絵を毎回解いている。毎回、なんか面白いことをやって頭を活性化させてから授業が始まっていましたね。

    田中館先生:それはありますね。地学だってもう、世の中にネタは事欠かないですからね。この前54年ぶりに雪が降ったねとか、そんなことをどの学年でも話せば、雪が降った話から気象の話につなげられます。地震があったでもいいし、そういったところでは面白い話しがたくさんできるという気はしますよね。

    田口:そうですね。名物先生は実際に多いんだと思います。

    田中館先生:そうかもしれないですね。

    15. 6年後、生徒はどのような成長をしているか

    田口:貴校に進学した子どもは、6年後、どのように成長していますか?あるいはどんな成長を望みますか?

    田中館先生:そうですね。おおらかな人間になるとは思うんですよ。穏やかと言っていいのかもしれません。その反面、積極性に少し欠けたりもします。もちろんこっちから声掛けしてやると、ブレイクする生徒もいるにはいます。けれども往々にして、自分が自分がみたいな、僕がこうやりたい、こうするとこうなる、というような熱い人間にはならないと思います。ちょっとおっとりしているというか、少しずつやりますみたいなところが(笑)あります。

    おおらかな人間性もすごく大事だと思うんですが、自分の人生の分岐点あるいはチャンスに遭遇したときは、しっかりとチャンスをつかみ取ってほしいと思います。さっきも言ったように「どうせ、駄目だ」というのではなくて「どうせやるんだったら」という生徒になって欲しいですね。


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