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福間優希
卒業生

取材日:2016年12月3日
インタビュイー:国語科 水泳部顧問 早川千春先生
インタビュアー:慶應義塾大学3年・福間優希・芝浦工業大学3年 高田佳明

1. 先生になった動機


福間:先生になった一番の動機は何ですか?
早川先生:水泳に関わる仕事を考えていたら教員になっていた、というのが一番の動機かもしれません。ただもうちょっと言うと、小さい頃のキャリア教育の影響でもあります。その頃のキャリア教育は子どもたちに、「将来は何になりたいの?」と聞くんですよ。でも、小学生・中学生の頃にイメージできる職業って、学校の先生とか弁護士とかお医者さんとか、それくらいじゃないですか。自分はその中だったら先生が向いていると思って、突っ走っていたというのが正解かもしれない。
だから、今ではそういうキャリア教育は違うんじゃないかなって思っています。大学に行くと「広告代理店に勤めたい!」とか「商社マンになりたい!」って思う人もいるのに、そんなことを思ってる中高生ってほぼいないでしょ。だから、そういう古いキャリア教育のおかげで先生になったのかもしれないです。(笑)





2. これまでに習った尊敬できる先生

福間:今まで授業を受けてきた中で、尊敬できる先生はいましたか?
早川先生:正直に言うと、そういう先生はあんまりいないです。教員として見たときに「あの先生はこういうところがよかったな」という先生はいらっしゃいますけれど、尊敬できるっていうような、インタビューなんかであるような先生はいないかもしれない。(笑)

3. 教師になってから変わったこと

高田:早川先生って先生になられてからどのくらいなんですか?

早川先生:20年ちょっとだと思う。25年くらいかな。
高田:教師になりたての頃から比べて大きく変わったことはありますか?
早川先生:若い頃は自分のクラスや自分が関わったことだけで精一杯だったのが、だんだん学年全体に目がいくようになりました。それが学校全体になって、今では「自分のことができるのは当たり前。他の先生にどうやってそれをやってもらうか」みたいなことを考えるようになりました。
極端に言うと、若い頃は「自分のクラスがよければいい」と。決してそう思ってやっていたわけではないけど、結果としてはそういう動きになってたんです。でも今は、そういうことがあってはいけないと思うようになった。それが一番変わったところかもしれないですね。

4. 好きな本、影響を受けた本

高田:先生の原動力になっているといいますか、影響を受けている本ってありますか?
早川先生:尊敬できる人と同じ答え方で、直接的に影響を受けた本っていうはないですね。ありとあらゆるものに影響を受けているという自覚はあるけれども、特定のこの本に・・・というのは一切ない。
大学の卒業論文は宮沢賢治なので、宮沢賢治についてはもう死ぬほど勉強してるし、思想的なところで影響はあるかもしれない。さかのぼれば幼稚園はキリスト系のとこだったから、新約聖書とか旧約聖書とかも読んでるし。最近だとマーケティングの本だとか仕事術的な本も読んでるし、本当にこれといってというのないと思う。全部影響を受けている。
編集部:例えば、中学1年生に読んでもらいたいという本はありますか?
早川先生:中学1年生・・・僕はやっぱり宮沢賢治を読んでもらいたいと思います。メジャーどころでいえば「銀河鉄道の夜」もそうだし、「なめとこ山の熊」とか。あとは「よだかの星」とか。「グスコーブドリの伝記」とかの自己犠牲的な作品は読んでほしいですね。
国語の教員として語るのなら、「中学1年生にこの1冊を読んでほしい」というのは非常に難しいです。名作を全部読んでほしい。日本人として生まれた以上、1年間では無理かもしれないけど中高6年間くらいで、夏目漱石1冊、森鴎外1冊でもいいから読んで欲しい。そういう意味で、「これだけ読めばいい」というのはないような気がします。
「銀河鉄道の夜」 宮沢賢治著
「なめとこ山の熊」 宮沢賢治著
「よだかの星」 宮沢賢治著
「グスコーブドリの伝記」 宮沢賢治著 


5. 大学に行くことの意味

福間:先生は進路部長でしたよね。「大学に行ったら、どんないいことがあるの?」って生徒に質問されたときに、どのように答えますか?
早川先生:好きな勉強が4年間できる。もうそれ以外はない。だから、将来のために大学に行くというのは半分以上嘘だと思っていて。やりたい勉強をやるためだけに行く。それを不真面目な生徒に言うならば、「4年間好きなことができますよ」って言う。勉強以外でも好きなことをやるために・・・4年間時間稼ぎができると言うと、ちょっと言葉は悪いけど。(笑)
でも、本来はそれが学校の勉強であってほしい。先生は文学部系の出身だから、文学をやりたいと思えば文学をやればいいと思います。「文学部は就職が悪いからちょっと・・・」みたいなことじゃなくてね。就職は大学で何をやったって、なんとかなるんだから。
一番きらいなのは、「スポーツ好がきだから大学にスポーツをやりに行く」という発想。大学には勉強をしに行くのであって、スポーツの勉強を本当にやりたいのなら否定しないけれど、「スポーツをやりたい」っていうのと「勉強したい」っていうのは違うと思いますからね。
高田:就職のためではなく、大学でやりたい勉強を優先すべきという認識でいいですかね。
早川先生:要はそういうことを言っているんですけど、将来のことがどうでもいいというわけではない。就活のためとか将来の職業のための大学だったら、そんなものは一切いらないと思う。そうじゃなくて、その先に将来自分が何を成し遂げるのかを見るべきだと思うんだよね。「学校の先生になる」というのは夢でもなんでもなくて、「学校の先生になってどうするか」がポイントになってくる。
それは常に両方から、今の自分から広がっていこうとする動きと、夢に向かって収束するような動きがあるじゃないですか。これがピタっと合うバランスであるべきだと思う。「やりたいことはどんどんやる」っていう動きと、「将来こんなイメージで仕事がしたい」という2つの動きのバランスがよくないと意味がないなと。はっきり言って、「就活のために・・・」とかはゼロでいいと思う。見据えているのはその先だから。大学については、そういう考え方ですね。

6. 中高一貫校について

高田:芝浦工業大学柏中学校は中高一貫教育ですけど、一般の中学、いわゆる3年間で終わるような中学にないものって何ですか?
早川先生:あんまりないんじゃない?ほぼないと思うよ。(笑)だってどこに行ったって同じでしょ?
福間:(笑)公立と違うところはどうですか?
早川先生:公立と違うっていったって・・・
福間:高校受験くらいですか?
早川先生:いや、個人的には高校受験があるかないかは大したことではないと思いますね。決定的に違うのは、むしろ教育のカリキュラム。公立中学には絶対にないものがいくつかあるじゃないですか。海外研修に行けるとか、クラブ活動で特殊なものがあったりとか、変わった授業があったりとか。そういうものは、公立中学にはあんまりないよね。
福間:ないです。
早川先生:そういう中身以外のところは、学校によるんじゃないかと思います。公立に行っていい先生に出会うか、私立に行っていい先生に出会うかは運みたいなものですし。そこで何を学ぶかについても、基本的には自分自身の問題であると思うし。せいぜい変わるのとしたら、特殊なカリキュラムかな。そこは魅力だと思う。
編集部:海外研修はどこに行くんですか?
早川先生:グアムとオーストラリア。君たちのときはマレーシアでしたかね。今も見直しを考えていて、より本格的なホームステイ型にしようと検討しています。そういうのは私立じゃないとできないよね。私立は公立と違って、各学校で癖のあるイベントができる。そこが一番だと思います。
編集部:海外研修の目的って何ですか?
早川先生:異文化理解が一番だと思います。自分たちの常識が常識だとは限らないので。僕はよく生徒に「以心伝心とか阿吽の呼吸というのは一番ダメなことだ」って言うんです。隣にいる人の気持ちが分かるというのは大事だけど、それは「自分だったらどう思うか」という考えから来ているんですね。「他人が自分と同じだ」という前提で成り立っているんです。
でも実際には違いがあるわけだから、その違いを認識しないといけない。簡単に言うと、自分の常識を知らなければならないわけです。でも自分の常識を知るというのは難しいことなので、常識が崩れるような場所に行くというのが大事になるんです。だから、やっぱり一番は異文化理解ですね。

7. この学校にあって他の学校にないもの

高田:先ほどは公立との比較だったんですけど、今度は他の私立にないものといったら何かありますか?
早川先生:何だろうな・・・。
福間:ノーチャイム制とか?
早川先生:そうかな。
福間:ノーチャイム制ってあんまり聞いたことないですよね。でもそのくらいしか思いつかない。
早川先生:そんなに特別っていうものはないよね。SSHのようなカリキュラムはあるけれども、強いて言うならば理系が強いとかそういうことになるのかな。
【編集部注釈 SSH:スーパーサイエンスハイスクール。科学技術、理科・数学教育を重点的に行う高校を文部科学省が指定する制度。】

8. 勉強以外で一生懸命取り組んでほしいこと

福間:中学受験で合格した人たちに、中高6年間で頑張ってほしいことって何かありますか?
早川先生:なんでも。運動でもピアノでもいいんですけど、そういう一生懸命になるものがあるっていうことが大事なのかな。強いて言うなら、本はよく読んだほうがいい。本と新聞。テレビも悪くないけど、活字はこっちが読み取ろうという姿勢でしょ?テレビっていうのは受け身だから、やっぱり活字をベースにしつつ情報を集める。インターネットとかスマホとかは、できるだけやめてほしい。
高田:スマホのニュースよりも活字の方がいいですか?
早川先生:スマホでもニュースを見てくれるならいいけど、そんなの見ないでしょ?小学生がスマホを持ってたら、絶対ゲームをやるよ。(笑)

9. 印象的な生徒からの相談

高田:先生は進路部長と水泳部の顧問をやられていますよね。いろいろな生徒と関わりがあると思うんですが、生徒から受けた印象的な相談ってありました?
早川先生:ないですね。(笑)
高田:ないんですか?
福間:みんな同じような感じなんですか?
早川先生:もちろん生徒によって相談内容は全然違うけど、印象的なって言い方になると・・・その場では一生懸命やってますけど、相談の内容はほぼ忘れる。(笑)
福間:じゃあ、「なんでこんなことで悩んでるの?」っていう相談はありますか?
早川先生:そういうのは死ぬほどある。でも、それをちゃんと説明してあげるのが大人の義務だしね。悩んでいることがいけないわけじゃなくて、そのプロセスが大事。だから、「なんでそんなことで悩んでいるの?」と思うことはないです。
「質問がくだらないよね」とか「悩む必要がないよね」という言葉を使うことはありますけど。「そんなことでウダウダ言ってもしょうがないじゃん。みんなそうなんだよ」っていうのも大事なことだし。私はいろいろ相談を受けてもほぼ忘れるし、意図的にそうしている部分もありますね。

10. 教材について

福間:早川先生はIMRシートとかオリジナルプリントを結構使っていると思うんですけど・・・
早川先生:あれは単純に記憶をするための仕組みでしょ。
高田:IMRシートを分かりやすく説明すると、どういうものなんですか?
早川先生:理論的に記憶をするための道具ですね。人間の脳はインプットと、アウトプットで記憶を整理するんですけど、それは交互にやったほうが記憶の効率がいい。なおかつ一度に記憶できる限界は7つくらいまでなので、7つのことでブラッシュアップをかける。そういうことを理論的にやったものがIMRシードです。
福間:簡単に言うと、アウトプットを強制的にやらせるというか・・・
早川先生:そうそう。一言でいうと、記憶の理論上にあるものをルーティン化する。本来そういうのは自分で考えてやるべきだと思うんですけどね。でも面白いことに、小テストはIMRシートを使うより生徒が適当にやったほうが点数がいいんです。
高田:どういうことですか?
早川先生:IMRシートを使うよりも、テスト直前に5分とか10分で適当にテキストを見て覚えたほうが、成績がいいんです。小テストを短時間で受けるにはそっちのほうがいいということだけど・・・
福間:その後一気に忘れちゃう?
早川先生:そうそう。小テストが終わった瞬間に、そのやり方は終わるわけ。そこに気付いて一手間かけられるかが、成績が上がるかどうかにつながるんです。「小テストのために、忘れるための勉強に時間をかけるのは無駄だ」ってことに気付くかどうかがポイントになるよね。
編集部:IMRシートは校内のいろんなところに置いてありますよね。それは先生が提案されて学校全体でやることになったんですか?
早川先生:なったというよりは、したって感じですかね。教育の均質化を図るためには、最低限の仕組みを作ることが大事だと思うんですよ。枠組みっていうんですかね。その発想のベースを与えるのが、進路部の仕事だと思うんですね。IMRシートは、その発想のベースの一つです。
「各学年で考えてやってください」っていうのは、ベースを作らないことになる。それはマズいから、基本発想としてはこちらが全部出してくと。それをどのくらい使うかは、学年に委ねることになります。その加減が難しいとこなんですけどね。

IMRシートの他にも、目標達成シートというものがあります。テストが終わったときに目標を書かせるシートですね。テスト前に計画を立てるんじゃなくて、テストが終わった直後に目標を書く。このシートを作るのは、将来的な逆算の練習なんですね。
最初のうちに書かせることは「将来何をやりたいですか?」みたいなこと。次に、なりたい自分に必要な能力を書く。「海外で活躍して目立ちたい!」みたいな目標だと、「英語が喋れる」とか「プレゼン能力」とか、あるいは「度胸がある」とか。そういうことを書いたら、そのためにはどのくらいの大学に入らなくちゃいけないかを考える。
目標の大学が決まると、目標の偏差値が分かります。目標の偏差値と現在の偏差値を書いて、より細かい目標を書いていく。細かく数値化して、スモールステップを踏ませるイメージです。これで目標を管理してPCDAで回すというシートです。

高田:先生は手帳がすごいというイメージがあります。生徒の手帳を印刷して先生が評価するコンテスト。あれは僕たちの代にはなかったので知らなかったんですけど、どういった狙いがあるんですか?
早川先生:うまい人の使い方を共有するということですね。手帳はとにかくタスク管理。スケジュール管理というのはほぼいらない。要するに、2時間英語を勉強するということには全く意味がないんですよ。大事なのは、何をやったかなんです。最終的に何個覚えたかがほしいんですよ。
簡単に言うとタスクを潰すことが大事なので、手帳にタスクを書いてどれだけ潰せるかっていうのをやる。まあここは、なかなか理解いただいてない部分でもある。やっぱり皆、何時間勉強したかが好きなんだよね。
福間:結果何をするかが一番大切ですよね。
高田:僕らは中学生のときから手帳を使っていましたが、小学生に対しても手帳は使ったほうがいいんですか?
早川先生:やったほうがいいよ。そんなの当たり前。もちろん小学校1年生がそういう管理ができるかっていうのは別としてね。ある程度高学年くらいになってきたときには、絶対やったほうがいいでしょ。
タスクワークは必ずすべき。もう少し正しく言うならば、小学生が今日やることのタスク管理はできないと思う。でも夏休みを過ごそうとすると、やらなくてはいけない宿題があるよね。その宿題を書き出して、やった項目を潰すっていう管理は絶対必要だと思う。それを夏休み全体でやるのは難しいから、1週間くらいで分けて管理する。
別の例えで言うと、あるスポーツで1年後にタイムを10秒縮めたいとする。単純な比例でタイムが縮まるとは限らないけど、普通に考えれば半年後に5秒縮まってなければいけない。この状況で半年で1秒、10ヶ月で1秒しか縮まってないのに、「1年の目標は10秒縮めることです」っていうことを平気で言う子がいるとしたら、やはり問題だよね。
手帳を使うかは別として、それが簡単に言うとタスク管理になる。紙に書いてやったことを潰すとか、やったことを書いて積み上げるとか、それはやっぱりやるべき。レベルに差はあるにしても、そういう脳ミソが動かないとマズいんだよね。
福間:結局自分たちでやらなければ意味ないですもんね。
早川先生:そうそう。だから小学生でもタスク管理はやるべきだと思う。


11. 生徒の観察について

高田:先生は、生徒の観察ってされていますか?
早川先生:しているかしてないかで言うと、多分していないと思います。
高田:それは意図的に?
早川先生:うーん・・・生徒のことは特性として見ているので、ちょっとした動作でほぼ見抜きます。担任をしているときは別ですけど、自分では全く観察をしているつもりはないので、申し訳ないけれど名前も覚えていないことが多いんですよ。今は進路部長で「顔や学年は覚えているけど・・・」っていう意識なので。名前を覚えるという発想じゃないですけど、生徒のちょっとしたことで見抜くことが多いですね。

12. いじめについて

福間:「いじめがあったときにどうしますか?」という質問なんですが、私は個人的に“いじめ”って言葉がきらいで。いじめって、“いじめ”の一言で片付けられちゃうじゃないですか。何をどうしたのかというのが一番重要なんじゃないかなと思いまして。早川先生はどうお考えですか?
早川先生:観点は正しいですよ。その前に、一つ整理しないといけないことがあります。文科省によると、いじめられた側が「いじめられた」って言ったら、それはもう“いじめ”なのね。これはもう、そう決まっている以上動かないわけですよ。
例えば、ある生徒が一人でご飯を食べているとします。それを見た別の生徒がかわいそうだと思って「一緒にご飯を食べよう!」と声をかる。そこで本人が「ちょっかいを出された」と言うと、我々はそれを“いじめ”と認定をするしかないんです。そうするともう、声をかけるのをやめさせるしかないわけ。例えそれが良いことではなくても、本人がイヤがっている以上やめさせるしかない。でも、それで退学になるとか停学になるのはありえないでしょ。
だから僕がよく言っているのは、“いじめ”って言葉は本来使うべきではない。例えば、生徒がプロレスごっこで怪我をしたとして、それが“プロレスごっこ”ならセーフ、“いじめ”ならアウトというのはおかしい。それは起こった物事で認定すべきだよね。だから僕は、この“いじめ”という言葉遣いは何とかしたほうがいいと思う。
高田:今お聞きしたのは早川先生の主観的な意見ですけど、学校としての取り組みはどうですか?
早川先生:いじめ防止対策推進法という法律が定められている以上、いじめ対策の仕組みがない学校はないと思います。本校でも「このルートでここに報告して、程度に応じてここで会が開かれて・・・」という対策マニュアルはあります。
申し訳ないですけど、「いじめにどう対応するのか?」という質問はナンセンスなんですよ。実際のところは、起こった問題をどう解決するのかが大事なので。“小さいいじめ”のようなものは学校の中で日常茶飯事で・・・そんなことが起こらない学校はありえない。それをいかに早く見つけて、いかに広くしないかということが大事だと思うわけですよ。「いじめをなくす」という発想で、本当にいじめがなくなる学校があったら逆にビックリします。
だから、“いじめ”をなくそうとするんじゃなくて、“小さいいじめ”をできるだけ早く止めるっていう発想が大事なんじゃないのかなと思います。

13. 落ちこぼれた生徒への対応

高田:落ちこぼれた生徒に対してはどんなかたちで対応されているんですか?
早川先生:基本的には補習をするっていうことですよね。仕組みとしては、いわゆる普通の補習がひとつ。それからもうひとつは、リクルートの“スタディサプリ”という教材を取り入れています。
すごく落ちこぼれてしまった生徒に関しては、普通の補習は意味がないと思うんです。それはなんでかというと、つまずいた場所が違うから。補習というのはどうしても、今やってる場所を分かりやすくやるとか、前のテスト範囲を分かりやすくやるとかなんですね。落ちこぼれた生徒のつまずいた場所まで、場合によっては中学校一年生まで戻ってやり直すなんてことは、どうしても補習だと難しいんです。
それをやるためには、個別指導をしなくちゃいけないし、個別の教材を使わないといけない。そのために使用している教材が、リクルートのスタディサプリです。中学校から高校までの教材全部をビデオで見られるというものです。先生が個別にスタディサプリのどこをやるべきかをアドバイスして、計画を立ててやり直させるという取り組みをやっています。
すごく落ちこぼれる生徒っていうのは、勉強ができないという事の前に、何かしらの問題があるわけ。本来はそこを解決しなくちゃいけないのですが、これも個別指導ですね。学習習慣や生活習慣という指導が一つの軸で、もう一つはモチベーション。このモチベーションに関しては、もう本当に個別指導でやるしかないので。
Link:スタディサプリ
福間:基本的には生徒自身がちゃんと考えてほしいっていうのがあって・・・
早川先生:そう。だから、補習とスタディサプリという2種類の仕組みを作りました。個別指導については、面談週間みたに先生と個別に面談するチャンスが何回もあります。というところまでは仕組みとして作れるんだけど、やっぱり本質的に落ちこぼれる生徒をどうするかというのは別かな。ここの仕組みは、どうやってもなかなか仕組みにはならない。
福間:スタディサプリって、どうやって使うんですか?
早川先生:パソコンです。生徒にIDとパスワードを発行して、スタディサプリのサイトにアクセスするとビデオが全部見放題になる。衛星予備校の東進みたいな感じですね。
高田:それは学校のネットワークだけじゃなくて、家でもスマホでも見れるんですか?
早川先生:はい。全部見れます。
編集部:スタディサプリは進度の遅い生徒に限ってですか?それとも全校ですか?
早川先生:全校です。中学校三学年と高校一年生まで全員。高二高三は予備校を選ぶ生徒もいますので、希望制にしています。スタディサプリの一番タのーゲットは、やっぱり高一と中三なんです。
中三は受験がないので、ここをなんとかするために中学校の振り返りを一気にやらせたい。でも中三で振り返りをやらせても、やっぱり動ききらないんですね。それが高校になったときにスイッチが変わる可能性が高いので、高一でもスタディサプリを取り入れています。中三・高一は総復習としてそういうアイテムを持たせたいということですね。
編集部:生徒からの反応はどうですか?
早川先生:こちらが思うほどは使ってないですね。やはり、どうしても、勉強時間には宿題をやりたいわけだよね。自分で課題を見つける勉強は、どうしても後回しになる。
分かりやすく言うと、テスト前に何の勉強をやるかといったらテスト範囲でしょ。テスト範囲のスタディサプリも提示はするんですけど、生徒はテスト範囲の教科書をやったほうが得だと思うわけですよ。でも本当は、その範囲を受験的に考えて、教科書とは違う問題でやったほうが賢くなるわけですよね。
高三生に受験勉強とテスト勉強のどっちをやるかって聞いたら、普通は受験勉強って答えるよね。でも受験勉強をやったからといって、定期テストがボロボロになるわけじゃない。もしそうなるとすれば、そんな状態では入試に受かんないでしょ。ある一定の細かい範囲さえできてないで、何が受験だと。
だから本来は、広い範囲を受験勉強的にやって、定期試験の狭い範囲なんて完璧にするべきなんですね。そういう勉強を最初からやっていれば、受験もテストもすごく楽になる。その意味ではスタディサプリをやるべきなんですけど、やはり生徒は目先のテストや宿題に行きがちですね。スタディサプリはどうしても後回しになるので、なかなかうまくいかないですね。

14. 先生の人気について

高田:学校の好きな点を挙げてください。
早川先生:何とも言えないけど・・・民主的というか、より良いものがあれば取り入れる土壌がある。分かりやすく言うと、トップダウンの組織ではないということです。
生徒においてもそうなんじゃないかな。「こうしなさい!」ってことではなくて、常に考える余地があるというか。生徒がどう感じてるかは別として、機会は与えるよね。その機会を生徒がどう活かすかについては考える余地があると思うので、やはりそういう民主的なところがいいところじゃないかと思いますね。
高田:それって授業とか勉強面ってことですか?
早川先生:部活動もそうだし学校行事もそうだし。極論を言えば、部活で結果を出すためにいい選手を取ってくる学校もあるでしょ。勉強ができる生徒を集めてくる学校もある。でも本校はそうじゃなくて、何をするにしても全部余地がある。みんなが勉強で入ってきて、みんなが部活動をやらなくてはいけないような環境。そういうところがいいところだなと思いますけどね。

15. 学校の改善点

福間:学校で「もっとこう直したほうがいい」ということは何かありますか?
早川先生:大きく分けると2つあって、1つは生徒側の問題で生徒会。こういうこと言うと怒られちゃうけど、生徒会が未熟だよね。生徒総会なんかは話し合った上で議論に持っていかないといけないけど、今はアンケートみたいな多数決で決まるよね。それを生徒総会で「みんなで話し合った結果です」みたいなことにして決めるのは、やっぱり道筋としてなってない。
本当はそういう議論の場を僕らが用意してあげないといけないんだけど・・・そういう意味で、やっぱり生徒会は何とかしないといけないと思います。今は生徒会が要求組織みたいになっちゃってるよね。要求するするというのは自立じゃないよ。自立するためには、自分たちで変えなくちゃいけないんだから。だからこそ生徒会は、委員会活動も含めてもっと変わるべきだと思いますね。
福間:アンケートは教員と生徒どちらが作るんですか?
早川先生:アンケートは生徒がやるんです。生徒会で議題に挙げたいものをアンケートにして、生徒総会で大して話し合う時間もかけずに「さあ多数決です」みたいな感じで決めちゃう。自立性を育む場として、そういう決め方はどうなんだろうって思いますよね。
もう1つは教員側の問題点であるんだけど、授業が過程ではなく結果を重視する傾向にありますね。英語だと単語や文法を覚えさせることが授業の目的になりがちなんですけど、大事なのは英語そのものを分かりたいと思わせることなんです。「英語の成績を上げたい」じゃなくて、「英語を理解したい」っていうモチベーション。それをもっと大事にしないといけない。
やっぱり僕らは教員なので、そういう「生徒のモチベーションが大事だ」というレベルの認識では甘いと思うんです。「生徒のモチベーションを上げるためにどういう仕組みを作るのか」というところまで真剣に考えないといけない。そこが教員側の問題点ですかね。もちろんそれは難しいことだけど、僕はそれが学校教育の全てだと思っていますので。

16. 生徒たちは6年間でどのように成長するか

福間:この学校に進学した子どもたちは、6年後どんな感じで成長されてるんですか?そして先生自身、どんなふうに成長してもらいたいですか?
早川先生:どう成長してるかっていうのは難しいかな。望みとしては、自立した生徒。自分でやることを決めて、自分で考えて自分で行動する生徒。もうそれが全てですね。
自ら立つ“自立”した生徒になってほしい。自分を律する“自律”ではなくてね。律するというのは、誰かが言ったことを人が見てないところで頑張るってことでしょ。それはやっぱり「人に言われたことを・・・」という発想なんですね。そうではなくて、やることを自分が決められる。自分の力でやるし、自分で決めるし、自分で対策を考える。そういう“自立した生徒”になってほしいですね。
生徒が社会に出たときに世の中がどうなるかなんて、分からないじゃないですか。冒頭の職業の話につながるんですけど、自分の将来を職業で考えるなんてことは危なすぎるよね。だって10年20年経ったときに、世の中がどうなるかなんて分かんないわけだから。
だからそうではなくて、「自分はどうありたいか」ということを考える力が大事になるんです。その道筋は自分で考えなくちゃいけないから、この6年間でその力を身につけてもらう。要するに言われたことをやる生徒じゃなくて、自分でやることを考える生徒になってほしい。社会に出たときに、どんな状況でも力を発揮できる生徒にならなくてはいけないし、そうするための力を本校で身につけなければならない。与え過ぎちゃいけないということですね。

17. どんな生徒に来て欲しいですか。

高田:小学校から入ってくる子にはどういったことを求めたいですか?
早川先生:いろんなことをやって、いろんなことにチャレンジしていてほしいですね。正確には、「多くのことをやってほしい」ということではなくて、「何かをするために何かを犠牲にしないでほしい」ということです。「中学受験をするから○○をしませんでした。××をするから△△は我慢しました」ではなくて、欲張りに同時並行でいろんなことをやってほしいです。
高田:「中学受験のために今までやってたテニスを辞めて勉強に打ち込みました」っていうのはよくない?
早川先生:一時的に辞めることは仕方がないけど、それが正義ではないと思いますね。そうしなければならない子が本校に来ると、ちょっと戸惑うかもしれない。部活も学校行事も勉強も頑張ってほしいという学校だから、何かをやるために何かを我慢するのはマズいと思う。
よく生徒に話すんだけど、勉強っていうのは最低限やらなければいけないことなの。子どもにおいてね。それは大人の仕事に似てるところがある。大人にとっては、「仕事を最低限やらなくちゃいけない」っていうことと、「仕事が一番大事」っていうことは、天と地ぐらい違うんです。
「仕事が一番大事」ってことは、家庭に何か不幸があったしても「仕事があるからそれは無理です」ということになりかねない。でも、それは問題だよね。だから仕事は必ずやらないといけないけど、大切なものはもっと他にあっていいわけです。でもそれは、仕事をしないっていうこととは違う。「ゴルフが好きだから仕事をしない」っていうのは問題でしょ。それは学校生活における勉強も同じなんだよね。
一方で、僕はよく水泳部の生徒に「水泳と学校行事と勉強とやりたかったら、家族旅行とか行ってたら無理だぞ」みたいな話をします。いくつか我慢しないといけないのは間違いないんだけど、やることを1個に絞るっていうのは全然違う話なんです。だから、小学校の頃から我慢しすぎないでほしい。「何かを成し遂げるために何かを捨てる」ではなくて、やっぱりいろんなことをやってほしいと思いますね。

18. 受験生の保護者に求めるもの

高田:今の中学校受験はよく“親子受験”と言われるじゃないですか。受験生の保護者に何を求めますか?
早川先生:これも大きく分けると2つあるんですけど、1つは「中学校に入ったら子どもから手を放しますよ」っていう気持ちを持つこと。障害を取り除くのではなくて、失敗させるようなイメージ。小学校の保護者でそこまでの勇気は出ないと思いますけど、少なくとも中学校に入ったらそうですよと。
だから学校を選ぶときに、「この学校に入れたら大丈夫だろう」みたいな学校選びはしないでほしい。「波風やトラブルが山ほど来て、それを乗り越える中で成長するところ」として、学校選びをしてほしいなと思います。
もう1つはこれの裏返しなんですけど、小学校の頃はやっぱり親が面倒を見ないといけない。子どもと一緒にやれる最後のチャンスなので、ゆっくり学校選びを楽しんでくださいと。この2つのが保護者に向けたメッセージですかね。だから学校選びとしては、ぜひ学校を成長の場として選んでほしいなと。学校に丸投げはしないでくださいという感じですかね。

19. 自分の子どもをこの学校に入学させたいか

福間:先生のお子さんを芝柏に入れたいと思いますか?
早川先生:うん。奥さんにもそう宣言してますよ。それは自分が一番いいことをやってるから。自分が一番いい学校を作るので、一番いい学校に自分の子を入れる。当たり前のことだけどね。ただし条件があって、本人がその年齢になったときに行きたいって言うかどうかですね。
福間:勧めはするけど・・・っていうことですよね。
早川先生:勧めるというか、僕の心積りは入れるつもり。選ぶのは本人だけど・・・まだ1歳にもなってないのでね。何年後の話だよってことですけど、僕の気持ちはもう100%入れるつもり。
福間:自分が一番いいものを作ってるから、絶対ここに来るはずだろうってことですよね。
早川先生:そうそう。だって他にもっといい学校があれば、その真似をすればいいだけの話なので。そういう学校にしないといけないと思ってるし、その自負もあるし。
高田:お子さんが受験されるまでに、先生の目指す学校ってある程度はつくれますか?
早川先生:今の時点で十分だとは思うんですけど。(笑)こういう仕事をする以上は、これからもより良くするっていうだけの話なので。でもある意味で言うと、いくらやっても完璧な学校にはならないですよね。
僕らも60代後半になれば力が落ちるわけで、生徒の気持ちとの乖離も出てくるし、教壇に立ってもうまくいかなくなりますよね。そうして辞めていく先生もいれば、また新しい先生も入ってくる。だから、学校の力として常にベストメンバーでどんどん良くなっていくってことはないんです。そういう中で学校の先生も育っていくわけだから。
もちろん、学校が時代に合った仕組みに変わっていくことはあります。iPadで授業をやってるかもしれないし、学校の黒板が別の何かに変わっているかもしれないし、学校行事も新しいものに変わるかもしれないし。でもそれは時代が進んだから進化するわけであって、今がダメでこれから良くなるわけではないと思います。今がベストだと思ってるわけではないですが、そういう根本的なところではあんまり変わらないのかなと思いますね。

20. 他校のいいと思うところ

編集部:他の学校で、この学校は見習うべきところがあると思われる中学校ってありますか?
早川先生:いっぱいあると思います。例えば、渋幕さんはやっぱり“自調自考”。あの発想っていうのはすごいですよね。修学旅行が現地集合みたいな感じでやってますよね。そういう徹底ぶりは見習うべきところがあると思うんですね。“自調自考”というコンセプトがあって、それに向けて学校行事をレイアウトして生徒にやらせる。やっぱり筋が通ってますよね。
桐朋さんは“おおらかさ”というか、“学校らしさ”をすごく推している学校だと思っています。ずいぶん前に学校見学に行ったことがあるんですけど、あの学校は昼休みになると死ぬほど外に出て遊ぶんですよ。(笑)小学校みたいにワーッと出てきてグラウンドで遊ぶ。小学校みたいな、いわゆる学校らしさがすごく残ってる。そんなイメージの桐朋さんが好きですね。
市川さんはサイエンスとかグローバル系の英語をやってるのもあるけれど、やっぱりアクティブラーニングですね。グループで勉強して学ぶ仕組みを作って、授業の中でコンセプトを共有して、その教室環境を整えていく。そういうところは素晴らしいと思います。
近いところでいえば、専大松戸さんは英語教育に力を入れていますね。英語の別棟みたいなのを作って、コミュニケーションができて・・・みたいな。ずいぶん前からそういう英語教育に対する意識を持ってらっしゃいますし。
いろんな学校に、全部いいところがある。だからといって、それを全部真似すればいいってわけではないですよね。お腹一杯になっちゃう部分もありますし、お金の問題とか人員の配置もありますしね。なんでも真似ればいいっていうことでもないと思います。
福間:ちなみに、お子さんの部活動ってどこに入れたいとかありますか?
早川先生:もう水泳部に。水泳は小学校ぐらいの頃からやらせたいね。ベビースイミングにも行かせようと思ってるし。この学校の水泳部に入って、全国で勝つ。僕のプランはそう、僕のプランはね。でもそれは本人が決める事だから。

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