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取材日:2017年5月15日

インタビュイー:進路指導 Senior Advisor・副校長 福本眞也先生

インタビュアー:立教大学現代心理学部映像身体学科2年生 加登谷美琴


【イントロダクション】

「自己実現の後押しが学校の使命。そのために明星は変わらなければならない。」その言葉には改革の強い意志が感じられた。“自己実現”には当然大学進学が含まれる。生徒それぞれが6年間でステップアップし、よりレベルの高い大学に入学する。それが個々の自己実現の可能性を高める。しかしそれには生徒一人一人に別の対応をする必要がある。先生をはじめ学校側には大きな負担が生じる。「教育の本質は変わらない。だから、明星でもできると思っています」明星の伝統を残しながら、改革し、結果を残す。簡単な道ではない。しかし、成功体験がある人は強い。この人なら実現するのかもしれないと思ったインタビューだった。 


1.◆◆第1部. 人物・経歴◆◆



2. ①明星中学校・高等学校勤続年数

加登谷 :よろしくお願いします。まず初めに福本先生ご自身について聞かせていただきたいと思います。明星中学校・高等学校の勤続年数を教えていただけますか。
福本先生 :平成28年の1月1日付ですから、1年と5カ月目ですね。あなたが卒業した頃にはいたのはいたんだよ、きっとね。
加登谷 :はい、私は28年の3月に卒業なので。
福本先生 :そうだよね。



3. ② 在職年数

加登谷 :はい。では続きまして在職年数を教えていただければ。
福本先生 :明星?
加登谷 :全体の、教師の・・・。
福本先生 :教職ですか。教職はですね、24年足す1年5カ月。


4. ③ 教員になった一番の動機

加登谷 :それでは、教員になられた一番の動機を教えてください。
福本先生 :高校3年生のときの英語の先生がすばらしかったからですね。
加登谷 :どのようにすばらしかったのですか?
福本先生 :授業がうまい。それから何というか、授業でどんどん引き込まれていくんだよね。それで一つひとつは、すごく面倒見がいい。面倒見がよくて、僕たちの心をつかんでいくの。それですごく面白くてバイタリティがあって、こんな英語の先生いいよなって思ったんですよ。でも、僕自身は、理系なんです。
加登谷 :あ、そうなんですね。
福本先生 :そう。だから僕の同級生は医者が多いんですよ。それで、3年生の秋に「先生みたいな英語の先生になりたい」って言ったら、「一生のことだからよく考えなきゃいけないよ」と言われたんです。ただあくる日にもう一回呼ばれて。「おまえはやんちゃ坊主だから医者になるより学校の先生のほうが合ってる」って言われたんですよ。「学校の先生は優等生ではなかなか難しい。やんちゃ坊主のほうが生徒の気持ちがよくわかる。だからそういう面では福本は合っている」と。僕は親一人子一人なんですけど、「親一人子一人だから苦しい子どもの気持ちもわかるだろう。頑張って勉強して俺の後継ぎとして母校に帰って来い」と言われたんですよ。

加登谷 :なるほど。


5. ④ 熊本高校を公立トップ校に

⭕️⭕️改革のきっかけ⭕️⭕️

加登谷 :では続きまして、熊本高校進路部長時代の取り組みについてお聞きしたいと思います。ということはご自身が熊本高校の出身で・・・?
福本先生 :はい、そうです。
加登谷 :ご自身が在学していた間と母校に戻って先生になったときに感じた変化など、改革をしようと思ったきっかけを教えていただけますか。
福本先生 :すごく自由な学校だったんですね。生徒を大人として扱ってくれる学校だったんですよ。それで僕は23歳のときに採用試験に通らずに非常勤講師として熊本高校で2年間勤務しました。その時期はまだ恩師たちもいて、すごくいい学校だった。自由でなおかつ世界に羽ばたいていこうという夢があって。
加登谷 :はい。
福本先生 :2年間母校の熊本高校で非常勤として働いて、正式に採用試験に通って、10年間二つの学校に行ったんですよね。それで35歳で母校に帰ってきた。そしたら、ただ単に大学入試に合格させることを目的とする学校に変わっていたんですよ。
加登谷 :実績のみを?
福本先生 :そう。そういう指導方針に変わっていて、「え、違うんじゃないの?」と思ったんですけど、35歳で帰っていったときには、まだ偉い先生がいっぱいいてね。たたかれるわけですよ。(笑) それでも少しずつ抵抗しながら40歳になった年に進路指導部長に任命されたんですよ。そこから徐々に昔のリベラリズムとアカデミズムを持っている学校に戻したいなと。でも世の中の流れですから当然進学実績は維持しなきゃいけない。そこのところをうまくできる学校にもう一回戻したいなというふうに思ったんですよ。


⭕️⭕️具体的に行った施策⭕️⭕️

加登谷 :40歳で進路指導部長になられたということなんですけど、改革するのに具体的に行ったことなどは何かありますか。
福本先生 :具体的に行ったのはですね、一つは進路実績を上げるためにいろんなものをシステム化しました。
加登谷 :システム化。
福本先生 :はい。システム化、体系化っていうのかな。誰がやってもできるようなものを作らなきゃいけないと思って。だからデータも重視しなきゃいけないし、分析も重視しなきゃいけないし。それから一人ひとりの生徒の性格から勉強の仕方からそういったものを全部俎上にあげて、一人ひとりの生徒を指導していくと。あるいは3年間、まだ大学にしかシラバスがなかった時代にもうシラバスを導入していました。
加登谷 :いろんな方が学校にいる中で全員が同じ方向へと・・・。
福本先生 :そう、同じベクトルへね、方向を合わせたかったんですよ。


⭕️⭕️熊本高校をどのような点で公立トップ校に導いたのか⭕️⭕️

加登谷 :そのようなことを行ったおかげで熊本高校を公立トップ校に導いたということなんですけれども、どのような点でトップ校になったんでしょうか。
福本先生 :学業面、成績面で言うとセンター試験が公立高校の中でトップ。それから東大の合格数がベスト3。だから常に現役20人から落ちなくなった。単に東大だけではなくて全国の、熊本県立大学も熊本大学も鹿児島大学も含めて、東大・京大・一橋大・東工大、そういう主だった大学がすべて二桁合格です。
加登谷 :二桁。わあ、二桁ですか。
福本先生 :そう。だから筑波も十何人、名古屋、京都も十何人、一橋も十何人、東大は二十人以上と。九大が八十何人で熊本が百何人、地元の熊本県立大学も十何人とか鹿児島大学も十何人とか。11の大学が確か二桁合格だったと思います。
加登谷 :それは結構何年も続いてそのような状況に?
福本先生 :約10年は続いてきましたね。


⭕️⭕️どのような学校を目指したのか⭕️⭕️

福本先生 :それが学業的なもので、もう一つはエネルギーを持った学生を作りたかったんですね。
加登谷 :はい。
福本先生 :エネルギーを持つためには、いろいろなことを経験させなきゃいけないということで。今でこそどこでもやっておられますけど、職場研究、職場体験なんていうのは平成8年に熊本高校でもやってたんですよ。
加登谷 :その時代にはまだ・・・。
福本先生 :なかった。だからそういったいわゆる職業観の育成とか、何で大学に行くのかということ。それらをしっかり理解したうえで大学に行こうねというのと、もう一つは大学にとってありがとうじゃなくて、この学校で学べたから今の自分があるんですよというのを5年後、10年後、15年後、20年後に言える生徒たちを作りたかった。
加登谷 :実績だけにこだわってしまうともう「大学に入ってから何をしよう?」という人が増えてしまうと思うんですけど、そういったものを・・・?
福本先生 :そう。そういうのを何とかしたかった。だから部活動もすごく盛んだし、イギリスのイートン・カレッジとの交流も始めました。パブリックスクール・イートンですけどね。始めたのが1996年かな、約20年ですね。
【※編集部注釈:1440年に創設された男子全寮制パブリックスクール。ウィリアム王子、ヘンリー王子の母校です。過去19人の英首相を始めとする多くの著名人を輩出しているイギリス一の名門校。】

編集部:それは何の目的があったんですか?

福本先生 :初代校長のときに、「イートンをモデルにして学校を作るんだ」というのがあって。いわゆる日本の野蛮人的な学校じゃなくてジェントルマンの学校を作りたいと初代校長が言われていて。その伝統がずっと残っているんですよ。
編集部:ノブレス・オブリージュ?

福本先生 :ノブレス・オブリージュが。だからそれを具現化したかったんですよ。
編集部:なるほど。イートンの例えばどういうところを取り入れられたとかってあるんですか?

福本先生 :サマースクールに、毎年20人の枠がずっとあります。その枠を持っているのは学習院女子とうち(熊本高校)だけしかないと思うけど。
加登谷 :そういうシステムを導入されたのが福本先生だったという・・・?
福本先生 :はい。
加登谷 :それが今も続いているというのは・・・。
福本先生 :今も続いてるんですよ。
加登谷 :すばらしいことですね、それは。


6. ⑤ 熊本高校での成果を全国に

⭕️⭕️ベネッセに転職した理由⭕️⭕️

加登谷 :では次に、ベネッセに転職された理由を教えてください。
福本先生 :二つあって。一つはですね、熊本高校時代、進路部長としていろんな注文をつけていたんですよね。敵だったんですよ、本当は。(笑)それで、逆にベネッセに取り込まれちゃったというのが一つ。もう一つはベネッセに行ったら熊本高校でやったことを全国の学校に発信できるんじゃないかと思ったんですよ。
加登谷 :そうですね。


⭕️⭕️仕事内容と成果⭕️⭕️

加登谷 :ベネッセではどのようなお仕事でどのような成果を上げられたとか、具体的なものは何かありますか?
福本先生 :最初はですね、今のGTECを作る部門だったんです。その当時は平成13年ほどだから、英語のコミュニケーションイングリッシュというのは、そんなになかったんですよね。今までの訳読式、文法式で十分だという学校が95%だったんですよ。そういう学校に営業マンと一緒に行って「いや、違うんですよ」というような職員研修とか生徒への講演とかをやっていた。

加登谷 :はい。
福本先生 :ただ僕は前歴が高校の現場だから、どうやったら進学実績が上がるのかという研修によく引っ張り出されていましたね。それを通してやっぱり生徒のエネルギーをどう引き出すのか、何のために教育をやっているのかという話をよくしていました。だから全国のいろんな研修会とか講演会に引っ張り出されるのが一番多かったかな。
加登谷 :熊本高校時代に築き上げた先生のお考えとかそういったものを全国に発信することができた・・・?
福本先生 :そうですね。実はそのあと1年4カ月で東京に呼び出されて進研ゼミの高校講座の責任者になったんですけど、そのときは進研ゼミを通して、ただ学習するんじゃなくて情報紙なんかでいろんなものを発信したり、模擬試験をただ作るんじゃなくてバックボーンまで発信できるようなことをしていました。例えば英語でいうと英作文の解答だけじゃなくて、そこの文章を取ってきた原文の文章までつけるとかね。そういうバックボーンまで大切にしようよっていうような教材にしていましたね。
加登谷 :なるほど。
福本先生 :それからもう一ついうと、日本で一番最初にオンデマンド印刷を実行したんです。
加登谷 :おお。
福本先生 :それまでは進研ゼミというのは15万人20万人の一学年に対して同じ教材を使っていた。そしたら合わなくなりますよね。いろんな意味でね。
加登谷 :そうですね。
福本先生 :それで教科書別、進路別でできますよっていうようなことをやるためには、オンデマンド印刷でないとできなかったんですよ。
編集部 :One to Oneのような?
福本先生 :One to Oneで対応しなきゃいけない。それを日本で最初にやりました。今でこそオンデマンド印刷なんて当たり前にやってますけどね、大変だったんですよ。(笑)
編集部 :子どもの特性を把握して、それに合った教育ということですか?
福本先生 :そうですね、はい。
編集部 :なるほど。
福本先生 :教科書別、進路別、難易度別、この三つがすべてできますよっていう現場対応に変えた。
編集部 :なるほど。
福本先生 :なかなか難しいことなんですけどね。(笑)
編集部 :でも、それによって、まず一つ生徒にとっては自分に適したものが・・・。
福本先生 :そうそう。あなたのですよっていうふうになるよね。
加登谷 :私も進研ゼミを幼稚園から高校までずっとやっていたんですけど、中学のときも難易度別もありますしたし、高校生になってからも。オンデマンド印刷が当たり前になった今でこそ明星高等学校って表紙に書いてある(教科書別、進路別、難易度別につくられた)冊子が届くんですよね。
福本先生 :僕が考えたんですよ、それ。(笑)
加登谷 :そうなんですか!?国公立用とか早慶用とか全部分かれていて。
福本先生 :情報紙がかなりよかったでしょ?(笑)
加登谷 :はい。「マイビジョン」っていう職業だったりいろんなことが書いてあるものがあって。
編集部 :今のところで、一つ福本先生にポイントがあると考えていまして。学校の先生方がいろいろ改革をやられるときに理想主義に走ることが多いと思うんですよね。でも、例えば会社の中でこれをどうして通そうかっていうことになったら、これが経費削減にならないと実現しないんですよね。
福本先生 :通りませんよね。
編集部 : 福本先生 はその両方ともを持っているから、実際に結果が出ているような気がするんですけど。
福本先生 :ありがとうございます。僕はベネッセで学んだのがね、夢がなければ人は動かない。お金がなければ夢が実現できないということなんです。その両方を追い求めないと、いわゆるビジネスとしては成功しないし、学校もそうなんですよね。
編集部 :はい。
福本先生 :現実のものにならない。だからそういう意味では、僕はめちゃ現実主義者です。


7. ⑥ 再び学校現場に戻る

加登谷 :そのベネッセで働かれていたということなんですけれども、学校現場、またはこの明星中学校、高等学校に戻られたきっかけや理由などを教えてください。
福本先生 :ベネッセは身体を壊して辞めたんですよ。2009年の年末ですけど。そのあと、2010年から私立学校さんの進路実績の改革を中心としてお金をもらう教育コンサルタントを始めたんです。その当時、埼玉県の西武文理というところに行っていたわけですけども、その西武文理の教頭先生が畠山武っていうんですよ。(笑)
加登谷 :なるほど!今のここの校長先生で。
福本先生 :それと東京に森上教育研究所という、畠山校長もよく知っているところがあって。そこに明星の理事が「教育改革をやりたいのだけれども、校長一人では足りないから誰かいないか?進学実績を上げる人は誰かいないか?」というふうに聞いたんです。それで、森上先生という方が「うってつけの人がいますよ」と言って僕の名前を出された。
加登谷 :はい。
福本先生 :それで明星の理事が、「畠山さん、こんな人(福本先生のこと)知ってる?」って畠山校長に聞いたら、「知ってるどころじゃありません」となって。(笑)2015年の2月からコンサルタントで入ったんですよ。ちょうどあなたたちが3年生のときの分析から入ったんですよ。
加登谷 :そうだったんですね。
福本先生 :だからきみたちがどこの大学を受けるっていう会議を僕がやったんですよ。(笑)
加登谷 :知らなかったです、初めて知りました。
福本先生 :それをやっていたら、吉田理事長から「コンサルタントじゃなくて中に入って明星を改革してくれないか」と。最初はお断りしたんですけど。その時に、「明星は90何年やってきた伝統のある学校で、ここまで約100年ずっとやってきた。次の100年が続くような学校にしてくれないか」と言われたんですよね。先の経営の数字とか進学の数字を言う前に、まず次の100年っていうのを言われたところで「あ、今までの経営者とちょっと違うな」というのがあって。2016年の1月から正式に副校長で入ったんですよ。


8. ⑦ 中学校や高校に通う意味、そして勉強する意味

加登谷 :次に、福本先生の基本的なお考えをお聞きしたいと思います。中学校や高校に通う意味、そして勉強する意味を生徒に聞かれたら何とお答えになりますか?
福本先生 :これは僕がベネッセにいたときによく言っていたんですけど、「よく生きるため」だと思うんですよ。
加登谷 :よく生きるため。
福本先生 :うん。やっぱり社会で「よく生きていくため」の基本的な知識って必要ですよね。そのために勉強してるんだと思うんですよね。そこですぐ出てくるものに学力というのがあるじゃないですか。
加登谷 :はい。
福本先生 :学力っていうのはその通り学ぶ力なんですよ。あなたもインタビューしながら何かを学んでるじゃないですか。
加登谷 :はい。
福本先生 :その学ぶ力なんですよ。受験で問われる学力もあるけれども、基本的には生きていくためには学力がないと生きていけない、いくつになっても。それが学ぶ力だと。その学ぶ力の大元の基礎になっている知識を学ぶところが中学校と高校だろうと思うんですよね。
加登谷 :なるほど。
福本先生 :昔はそこがインプット型だけでよかったんです、20世紀は。なぜかというとベルトコンベアー式の、歯車式の世の中で、いわゆる型にはまった人間がいればよかったんですよ。でも、21世紀になってくると違うんですよね。求められてる力が。
加登谷 :はい。
福本先生 :そういったものの基礎の基礎になるものを中学校・高校で勉強して、さらに大学、社会人となって拡げていくっていうのが必要じゃないのかなと思うんです。
加登谷 :はい。


⭕️⭕️学ぶ力の大切さを実感したエピソード①⭕️⭕️

福本先生 :あの、ルワンダという国があるんですけど、50万人から100万人が虐殺されてるんですよ、内輪もめで。そのときに日本に逃れてきたマリアさんっていう人がいて、「日本は朝ご飯を食べたらお昼ご飯も食べられるんですね。それが当たり前なんですね」ってすごく感動されるんですよ。だってルワンダだったら朝ご飯を食べたら、次のお昼ご飯のときには殺されてるかもしれない。それから本屋さんに行くと、2年日記とか3年、5年日記とかありますよね。「何でそんな先まで生きられる保証があるんですか?」って言う人だったのね。
加登谷 :はい。
福本先生 :アフリカっていうのはどの国も小学校5年生か6年生で広島・長崎のことを学ぶんですって。それがきっかけで日本語を勉強し出したと。そのあと結婚して子どもが二人できて、それから内戦が始まったと。全財産を持って逃れたんだけど、夫は途中で殺され、子どもは飢えてと。そこからかろうじて日本のNPOに出会って日本に来たんだっていう話の中でマリアさんに聞いて印象に残っていることがあるんですよ。
加登谷 :はい。
福本先生 :人間にとって一番大切なものは何ですかって聞いたら、当然まず「命」ですよね。
加登谷 :はい。
福本先生 :二番目に大切なものはって聞いたらいろんな答えが出るんですよ。友達だったり家族だったりお金だったり財産とかいろんなのが出てくるんですよ。その中で僕は長年教員をやっていて一回も考えたことがなかった答えが出てきた。
加登谷 :はい。
福本先生 :マリアさんが何て言ったかっていうと「二番目は、勉強なんです」って。「え、何で?」って聞いたらね、「どれだけお金があっても財産があってもどれだけ立派な家に住んでいても、一瞬のうちになくなってしまいます」と。
加登谷 :はい。
福本先生 :ところが「自分が学んだものは頭の中にあるから、命さえあったら自分の頭からまた出すことができる。それだけが自分の財産です」と言ったんですよ。「だから人間は勉強しなきゃいけないですよね」って。すごいなって思ったの、なるほどなって。確かに昔はそうだったんだよね、日本人も。
加登谷 :なるほど、そうですね。
福本先生 :自分の頭の中にあるからこそ出すことができる、それが勉強したことなんだよね。だから今の生徒によく言いますよ、マリアさんの話。自分の頭に入ったことだけしか本当に自分のものじゃないよねって。それがあったら自分の学ぶもののいろんな力が出てくるし、それがそのまま生きる力になるでしょって。
加登谷 :何も物がなくても、(勉強したことは)発信したりとかできるものですもんね。お金とかだと自分が身につけてないといけないし。


⭕️⭕️学ぶ力の大切さを実感したエピソード②⭕️⭕️

福本先生 :そうだよね。二番目に大切なのが勉強だっていう話の例として、難民キャンプの外側に難民村があるんですよ。入れない人たちがまだいて、その人たちに国連難民が粉ミルクを配ったら、赤ん坊の死者が余計に出たんです。
加登谷 :はい。
福本先生 :なぜかというと、粉を溶かなきゃいけないから、その辺の水たまりの水で溶かして飲ませてたんですよ。そこには細菌とかがいっぱいいて、それで子どもたちが死んでしまった。そのときに国連が何に気づいたかっていうと「学んでないから物だけ与えてもだめなんだ」ということなんですよ。
加登谷 :水たまりの水に細菌がいるというのもわからないですもんね。
福本先生 :わからない。

9. ◆◆第2部 明星中学・高等学校の現状◆◆



10. ①明星中学校・高等学校の6年間で得るもの

加登谷 :明星中学校・高校に通う生徒は6年間で何を得ることができると思いますか?
福本先生 :”凝念”という言葉。(笑)”凝念”に対する身体的反応。これだけは、恐らく明星を卒業した人は死ぬまで持っていくんじゃないですか。
加登谷 :はい。
福本先生 :それ以外ないと思う。一番残るのは”凝念”だと思う。
加登谷 :福本先生は、初めて凝念をご覧になったときはどのように思われましたか?
福本先生 :いいことやってると思いました。
加登谷 :なるほど。
福本先生 :心の教育をやっている学校って今はそんなにないですよね。だから本当はもっと凝念に力を入れるべきだと思います。明星の6年間で得られるのは凝念の精神、精神というか凝念という体感かな。だと思いますよ。
加登谷 :凝念ってすごい特別なものを感じると言いますか。私は小学校から明星で、幼稚園からここは凝念のようなものがずっとあるんですけど、やっぱり凝念をすると気持ちが落ち着く。言葉でうまく表せないんですけど。
福本先生 :それからもう一つはね、いい面を言うと帰属意識・仲間意識が強い。
加登谷 :そうですね、はい。
福本先生 :それはやっぱり一緒に6年間通う中で、まあ6年間行くところはどこもそうなんでしょうけど、非常にアットホームですよね。
加登谷 :はい。
福本先生 :いい面で言えばね。いい面過ぎて戦いに弱いところがあるけどね。(笑)
加登谷 :そうですね。(笑)


11. ②現状の評価すべき点と課題

加登谷 :今この明星中学校・高等学校になぜ改革が必要なのかということについて、お聞かせ願いたいと思うんですけれども。まず初めに明星中学校・高等学校の今のこの現状について、評価すべき点・よい点と直したほうがよい課題などありましたら教えてください。
福本先生 :いい面は今言ったように凝念ですよね。校訓の「健康、まじめ、努力」というのも非常にいいですよね。
加登谷 :はい、そうですね。
福本先生 :校訓の「健康、まじめ、努力」って、生きていくうえでの大切なことが全部凝縮されていますよね。健康、まじめ、努力の中にね。それを凝念という一つの体現するものの中で自分で落ち着いて考えてみようねっていう場があってね。それが伝統の中で脈々と流れてきている。これがすごくいいことだと思いますね。それから東京とかの学校の中では環境がものすごくいい。
加登谷 :そうですね。
福本先生 :この環境はちょっと他所にはないと思う。
加登谷 :都会にある学校ですと狭かったり近くに道路が走っていたりとかがあると思うんですけど、緑が多いのと敷地が広いのと。そこはいいです。
福本先生 :いいですよね。それで設備もいいですよね。温水プールがあってね、カフェテリアも広いしね。視聴覚ホールはあるわ、講堂はあるわ、体育館もあるでしょ。それで図書館もよくなるし、何しろ設備と環境はダントツじゃないですかね。あとはさっきの伝統として流れている心の教育。そこはやっぱり一番いい点。それから先生たちを見ると、皆さん優しいですね。優しくて、生徒にかける手間暇を惜しみませんね。
加登谷 :はい。
福本先生 :課題はね、生徒・保護者のニーズにどこまで合っているか。時代の流れもあると思うんですけど、生徒数が減っていっているわけですよ。そうすると今までの明星の流れの中のままでは、生徒・保護者にはアピールしなくなったんでしょうね。それが何だろうなっていうのが今後の課題です。時代に合わせて学校は変わらなきゃいけないのに、変わりきれていない。
加登谷 :はい、そうですね。
福本先生 :今までの精神面のよさだけでなく、今の親御さんはどうしても進学実績を求めたい。進学実績を上げるっていうのは悪いことじゃなくて、それを目指させることによって本人たちの頑張りが出てくるんですよね。それがそのまま生きていく力につながっていくんです。これまでの明星っていうのは大らかで朗らかで、楽しければいいと、それでも行ける大学はどこかあるよねと。でも行ける大学どこかあるよねだけじゃもう保護者・生徒のニーズには合わないですよね。
加登谷 :はい。
福本先生 :小学生のお母さんたちって明星の6年間で、その先はどうなるんですかってすごく気になさいますよね。かと思えば今までの明星のとおり大らかさ、朗らかさも大切にしてくださいって言うお母さんたちもいらっしゃいますよね。


12. ③どのような学校・教育を目指しているのか

加登谷 :はい。それでその改革、明星中学校・高等学校の改革として、どのような学校や教育を目指して最終的にはどのような学校を目指していらっしゃいますか?
福本先生 :端的に言うとね、”伊勢丹”。
加登谷 :伊勢丹?!
福本先生 :うん、高級百貨店。高級はつけなくていいけど、百貨店。老舗百貨店かな。古いいいものもいっぱい持っているし、新しい商品もいっぱいあるし、リッチな人たち用の商品もあるし、庶民が買えるような商品もいっぱいあるし、地下に行くとおいしいものもあると。

加登谷 :はい。(笑)


13. ④改革の具体的な内容

加登谷 :具体的には伊勢丹になるためにはどのような改革をなされていきますか?
福本先生 :一つは教員の対応力っていうのかな。受験が得意な人もいる、部活が得意な人もいる、それから芸術とか音楽を一生懸命教えてくれる人がいる、文化的活動で頑張ってくれる人もいる。そういう教員の得意分野を作りながら、それを全部一つにしたときに集団とか組織として機能する。進学実績一辺倒か部活動一辺倒とかは、両方違うだろって僕は思うわけ。全部ありでしょと。
加登谷 :はい。
福本先生 :生徒からしたら一生懸命勉強したい人もいれば、本を読みたい人もいれば、ハンドボールさえやっておけばいいっていう人もいるよと。ジュニアオーケストラをやっとけばいいっていう人もいるでしょと。ジュニアオーケストラだけしかやらなかったけど、それで1位になれる人もいると。
いろんな分野でいろんな人の居場所があって、それが全部対応できるような、ただし一つの方向性としては基礎学力はきちんとつけていこうねって。学ぶ力はつけていこうよねっていうのはやらなきゃいけないだろうなと。どんな学校かと聞かれたら百貨店ですよと。何がほしいんですか、あれもありますよこれもありますよって。少なくとも21世紀で必要な活躍力に対しての布石は打ってくれる学校ですよと。学校のビジョンがあるんだけど、”活躍力”ってしてるんですよ、21世紀の。 加登谷 :はい。
福本先生 :AIロボットが出てきて、なおかつ外国人がいっぱい入ってくるとですね、今までの職業の大半がいらなくなるんですよね。そのときに何が残るのかというと、マインドとコミュニケーションぐらいしか残らないと思います。そのマインドの部分は凝念でずっとやり続けてきてるわけだ。
加登谷 :はい。
福本先生 :それでコミュニケーションの部分ね。高度情報化社会に入ってきてるわけだから、STEM教育とか。STEM教育ってわかります?Science、Technology、Engineering、Mathematicsなんですよ。それに最近A、Artがつくんです。
編集部 :ステマって読むんですか?
福本先生 :スティーマじゃないですかね。スティーマって呼んでますね。なんでArtかというと、例えば、ただそこにあるトースターと、オブジェになるトースターとどっちがいい?今家電製品ってすごく面白いでしょう。あれはArtがあるからだよ。単に昨日だけじゃなくて、いろんな品物にArtがあると、いいわけですよ。だから車でもフェラーリなんかでも、Artが全然違うじゃないですか。ああいうものがやっぱりいろんなものに必要なんでしょうね。


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