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2017年1月12日

"自ら考え、行動して、その結果に責任を持つ"ということが身につけられる学校です

取材日:2017年1月12日
インタビュイー:数学科 芳賀晋作先生
インタビュアー:卒業生 35回生 立花美枝さん

インタビュアー:立花美枝さん
インタビュイー:芳賀晋作先生

立花:先生になられた一番のきっかけは何でしょうか。

芳賀先生:一番のきっかけは高校野球の監督をやってみたいと思ったことですね。実際にはやっていませんけれども。それから、高校生の頃に、自分が解けた問題を他の生徒に教えたりするのが楽しいし、分かってもらえるとうれしいと感じたこともきっかけの一つかもしれませんね。

立花:これまでに習った中で尊敬できる先生を具体的に教えてください。

芳賀先生:そうですね、どの先生もそれぞれに尊敬できるところがありましたので、特にこの人!とは決められないのですけれども。

立花:先生になった直後と現在とで、大きく変わったことは何かありますか?

芳賀先生:大きく変わったというわけではないのですが、最初の頃と比べると、授業やその他いろいろな場面で待つ時間を作ることができるようになったかなと思います。教員という職業に就いて間もない頃は、すぐ正解を求めたくなるというか、答えに間違いがないようにという気持ちが強かったのですが、経験を重ねていくうちに、生徒の考えを少しでも尊重するために、答えがまとまるまで待ってみようかなと思えるようになりました。

立花:好きな本や影響を受けた本があれば教えていただけますか?

芳賀先生:時々お世話になっているという意味では、野崎昭弘著『逆説論理学』という正解のない数学の問題や論理学について書かれた本ですね。少し難しいかなと思うのですが、授業で少し時間が余った時にはこの本を活用して、生徒達にいろいろな問題を解いてもらっています。基本的には正解がないので、生徒一人ひとりの違った発想を聞くことができて、とても面白いですね。

編集部:ちなみに、それは授業の空いた時間にされているんですか?

芳賀先生:クラスによって授業の進度が違ってくることがありますので、時間調整のためにやっています。ですから、全クラスでやっているわけではありません。

立花:「大学に行くとどんな良いことがあるか?」と生徒から質問されたら、どういう風にお答えになりますか?

芳賀先生:いろいろありますけれども、さまざまなバックボーンを持っている人たちと出会えるということが一番大きいと思いますので、それを伝えていますね。

立花:言われてみればそうですね。全国津々浦々から人が来ていましたから。

芳賀先生:そうですね。私なんかは福島の田舎の方から来たので、それも相まって、自分自身、結構衝撃を受けました。

立花:この学校にあって他の私立にはないものといえば何ですか?

芳賀先生:中高一貫校といえば中学高校一貫が普通だと思うのですが、本校の場合、いくつかの高校を選択できるというところが少し特殊だと思います。ちょうど今、どの高校に行くかを決める時期なのですが、進学先を選べることで、逆に「どうしたらいいのだろう?」と悩んでしまう生徒もいます。

立花:高校の選択に際して、このタイプの生徒はこの学校が良いのではないかというアドバイスをされたりもしますか?

芳賀先生:本当に悩んでいる生徒が相談に来たら、こちらの高校の方が合っているのではないかというような話はしますけど、基本的には自分で選んでもらっています。

立花:私が中学生の時より大分選択肢が増えましたよね。

芳賀先生:その当時から男子は、塾高か志木か選べましたけれども、女子は女子高しかありませんでしたからね。今は男女とも藤沢とニューヨークという選択肢もできて。

編集部:やはり各校で校風はそれぞれ違いますか?

芳賀先生:そうですね、まず規模が違います。塾高は一学年18クラスありますし、志木は中等部と同じような規模ですね。

編集部:塾高はどういう校風になるのですか?また、どんな生徒が多いですか?

芳賀先生:昔よりは丁寧ではありますが、規模が大きいので、基本的には良い意味で自己責任に基づく放任主義な校風かもしれません。

立花:今はそうだと聞きますね。昔は見きれていない感じが・・・

芳賀先生:自由の極地みたいなところでしたね。18クラス全部通して教える教員はいませんし、クラスによって同じ教科でも担当者が違ったりするので。それに比べて志木は、規模が小さい分、全クラス同じ教員に見てもらえるかなと思います。藤沢高等部は、藤沢中等部からの進学者が持つ雰囲気にどう交流していくかということもポイントかと思います。

編集部:なるほど。藤沢には何か特徴はありますか?

芳賀先生:英語と情報を重視しているというところが最大の特徴かと思います。また、慶應の中では、文字通り中高一貫であるということですね。

編集部:ちなみに、女子高はどうですか?

立花:慶應はどちらかと言えば男子の人数が多い学校なので、私達の頃は女子が生徒会委員長になるということがあり得なかったのです。女子高は女子しかいないので、そこで初めて女子が生徒会委員長になるという感覚だったのですが、今の中等部では、女子が生徒会で実権を握っていて、少数の女子の方が強いこともありますね。

芳賀先生:どうしても本校の場合、割合が男子2女子1なので、生徒会委員長選挙の際、どうしても男子の方に票が偏ってしまいます。

立花:なるほど。それでも今の中等部では、女子に票が集まることもあるのですね。

芳賀先生:生徒会委員長選挙の投票に関しては、男女関係なくという感じですね。

編集部:では、男子が女子に票を投じるということが多くなってきているということなのでしょうか?

芳賀先生:そうですね。昔とはだいぶ変わってきています。

【編集部注釈: 塾高・・・慶應義塾高等学校 志木・・・慶應義塾志木高等学校 女子高・・・慶應義塾女子高等学校 藤沢・・・慶應義塾湘南藤沢高等部 ニューヨーク・・・慶應義塾ニューヨーク学院(高等部)】

立花:中等部に合格した生徒に、勉強以外で一番取り組んでほしいことは何ですか?

芳賀先生:本校の場合、校友会(クラブ活動)が豊富にあるので、めいっぱい頑張ってほしいなと思います。上下関係なども学べます。上下関係といっても本校の場合は、同級生かと思うほど仲良くしています。

立花:本当に種類がたくさんあって、中には二つ三つ、多くて四つぐらい入っている生徒もいますよね。

芳賀先生:そうですね。

立花:生徒からの相談で印象的な内容があったら教えてください。

芳賀先生:「自分の良いところと嫌なところをどうしたらいいのか?」という相談を受けた時は、どう答えたらよいのか少し悩みましたね。「そういうところを全部ひっくるめて個性なんじゃない?」とは答えましたけれども、なかなか難しいことを聞いてくるなと思いました。

立花:どんな教材を使って授業をしていますか?

芳賀先生:数学科では基本的に、教科書はどの教員も使っていないかもしれませんね。問題集から少し難易度高めの問題を寄せ集めて授業の時に出題しています。

立花:ちなみに、先生がご自身で問題を作られることはありますか?

芳賀先生:自分で作るというよりは、問題集にある問題の難易度を少し高くしたり、逆に難し過ぎる問題は難易度を下げて作り直したりしています。

「授業で使用するオリジナルプリント」

立花:日々どのように生徒のことを観察していますか?

芳賀先生:休み時間になるとみんな中庭に出て行くので、教員室から生徒の様子を眺めています。それから、授業の時、調子が良くなさそうだなという雰囲気を感じたら、その生徒の担任に報告したり直接声をかけたりしています。

休み時間の様子
ボール遊びをしている生徒が多いです

立花:この学校は、中庭でバレーボールなどをして元気に遊んでいる生徒が多いですよね。雨でも外に出て遊んでいる生徒もいますし。

芳賀先生:他にやることもないからですかね?来校される方々には「何か大会があるんですか?」とよく驚かれます。

編集部:以前からそういう雰囲気でしたか?

立花:前からそうでしたね。私も、帰らなければいけない時間になるまで遊んで帰っていました。

編集部:先生がそれを許している雰囲気なのですかね?それとも、もともと元気な生徒が多いからでしょうか?

立花:そうですね、特に注意されることもなく。

芳賀先生:本校の休み時間は、2時間目と3時間目の間が20分と長いので、外でいっぱい遊べるのです。

立花:授業に遅刻してしまうことはないのでしょうか?結構ギリギリまで遊んでいたと思うのですけれども。

芳賀先生:そこは何とかやっているのでしょうね。まあ、その辺は割と許容範囲なので。

立花:いじめがあった時はどういう対応をなさっていますか?

芳賀先生:学年で6クラスあるので、各クラスの担任からなる担任団を組織し、学年の運営をしています。いじめがあるという情報が入った時、当事者の担任を中心に担任会議で話し合いが行われます。そこから、生徒に話を聞くなどしていじめが行われている事実があると判断できたら、各学年の主任である生徒係3人と校長である部長、教頭である主事、さらに無任所の生徒係2名の計7名が、最終的な対策委員会としていじめに対応します。また、カウンセラーやクラブ活動で関わってる顧問の教員なども話し合いに参加する場合があります。

立花:カウンセラーは毎日いらっしゃっているのですか?

芳賀先生:月曜日と火曜日に来ます。これも昔はなかったですよね。

立花:授業についていけない生徒にはどのようにして対応していますか?そちらも担任団で対応されているのでしょうか?

芳賀先生:成績が振るわない生徒は補習を受けなければならないというような、勉強を強制することはせず、基本的には自分自身で勉強してもらうという形を取っています。しかし、大体担任に連れて来られて勉強していることが多いですね。そこで放課後や夏休みの最初の1週間などに個別で勉強をさせることはどの教科でも随時やっているかと思います。

編集部:この学校では、生徒の成績ごとにクラス分けをするなどの対応をされていますか?

芳賀先生:本校に習熟度別にクラスを分ける制度は基本ありません。例えば、数学では数学演習という授業を2年生と3年生で1時間ずつ取り、そこで主にプリントを使い総復習することで、全員が高校でも通用するレベルになるよう対応しています。それでも少し難しいとなれば、また別の形で個別に対応しています。

編集部: 中高一貫校ですと、中弛み時期に理数系の遅れがすごく目立つ場合がありますが、そういった傾向はありませんか?

芳賀先生:もしかしたらあるかもしれませんね。理数系の科目が苦手な生徒は本当に苦手なのですが、極端な話、必修だけ頑張れば高校2、3年では履修しなくてもいいですし、自分が苦手な科目が必要ない学部を選択することも可能です。ですから、割と何とかなっていますね。それから、本校の生徒は土壇場には強いと思います。

編集部:土壇場で強いということですが、それに関してのエピソードは何かありますか?

芳賀先生:大丈夫かな?と思う生徒でも、いろいろ苦労しつつ何とか大学に行くことができたというところに土壇場に対する強さを感じましたね。でも、何とかなるのはやはり仲間が面倒を見てくれることが大きいかと思います。

編集部:大学に行っても会社に入ってもやはり中学時代からの慶應の方は繋がりが強いですからね。入学時の選抜時からそういう生徒を採るような姿勢があるのですか?20分の休み時間でも中庭で元気に遊ぶ生徒が多いと聞いて、もしかすると開放感がある子供達が選ばれて入ってきているのかなと。もし、内向的な生徒が一人でもいれば、なかなかそういう雰囲気にはならないと思うのですが。

芳賀先生:いや、そういう生徒でもすぐに染まりますよ。やはり幼稚舎から来ている生徒達が、誰彼構わず仲間に入れてしまうので。

編集部:よく受験を経て入って来た生徒と幼稚舎から進学してきた生徒の間では軋轢があったり派閥があったりという話を聞きますが、こちらの生徒はみんなを受け入れる傾向があるのですね。

芳賀先生:昔からこんな感じですね。幼稚舎からの友達同士ですと入学時から仲良くしているので、受験を経て入って来た生徒は最初引いているのですが、あっという間に仲間に引き入れられています。こちらがどうのこうの言う前にそういう流れになっていますね。

立花:あっという間にみんな仲良くなりますよね。

編集部:なるほど、いわゆる受験校という雰囲気ではないのですね。

芳賀先生:そこは少し特殊ですよね。学校説明会などで多少なりともそういう学校なのだと分かって入学してくれるので、この雰囲気にすぐ馴染める生徒が多いのかなと思います。

立花:幼稚舎の頃にみんなと仲良くしようということを教えられていて、例えば、忘れ物をしてしまったら「今日は隣の子に見せてもらって、仲良くなりなさい。次からはちゃんと持ってくるように」という感じで、怒られることは少ないのです。

編集部:そういう協調性やチームワークが自然と育めるような環境づくりがされているのですね。

立花:「他人の良いところも悪いところも認めなさい」と教えられてきたので、お互いにいろいろと認め合っているからみんな仲が良いのです。

芳賀先生:幼稚舎では6年間同じクラスで、嫌も好きも全部知っているので、もう家族のようなものですよね。あと、入学式初日から突然「名前は何ていうの?じゃあこれから○○って呼ぶね。」と決められてしまうので、受験を経て入って来た生徒は衝撃を受けていると思いますね。

立花:今でもそのあだ名で呼ばれている人もいますから。

立花:先生はご自身で人気があると思いますか?

芳賀先生:それは・・・自分ではあまり分からないですね。

立花:そうですよね。では、どんな先生が人気があると思いますか?

芳賀先生:勝手に自分が思っているのは、メリハリがある教員は人気があるのかなと。ただ優しいだけという先生よりも、厳しい時は厳しく、優しい時は優しくというように、きちんとけじめをつけられる教員の方が生徒達も付き合いやすいのかなと思います。

立花:私たちの頃は、一緒に遊んでくれる先生がすごく人気でしたね。それこそ、一緒にバレーボールをやったりとか。

編集部:先生も自由なんですね、きっと。

編集部:ちなみに、この学校にはどういう先生がいらっしゃるのですか?

芳賀先生:良くも悪くも独立自尊ですね。やりたいことをやっているという感じは昔からなのですが、今も多分そういう傾向があります。

編集部:例えば、こんな先生がいらっしゃるということを具体的に教えていただけますか?

芳賀先生:今はもう大分普通になりましたが、昔は本当に自由な方ばかりでしたね。まねしようとしても無理な感じの。分かりやすい例としては、今はいないのですが、国語の教員で髪の毛が七色の人がいましたね。

編集部:すごいですね。今ではそういう名物先生があまりいらっしゃらないようなのですが、やはり卒業生としては残念ですか?

立花:そうですね。名物先生が少ないというのは少し寂しいです。

立花:中等部の好きな点、もっとこうしたらいいと思う点がもしあれば教えてください。

芳賀先生:そうですね、良い点はやはり自由なところですね。受験がないので生徒達が本当にのびのびしていると思います。のびのびし過ぎるところはどうしたものかと思いますが。

立花:興味があることは、より深い知識を求めることが出来るし、そうでないものはそれなりに、という感じでしたよね。

芳賀先生:本当に大丈夫かな?と思うくらい自由ですよね。かといってある一定のラインから逸脱はしない。

立花:中等部に進学した子は3年後、または6年後にどのように成長していると思いますか?また、どんな風に成長してほしいですか?

芳賀先生:本校では、自ら考え、判断し、行動して、その結果に責任を持てるようにするということが大分身につけられると思います。やはり高校に行ってから急激に変わる生徒もいますね。あんなにタメ口でしゃべっていた生徒が丁寧に「こんにちは。」とあいさつするようにもなります。高校という新たなステージで揉まれて成長していっているのでしょうね。

編集部:生徒達がそれだけ自由にのびのび過ごせるというのは、先生が何かしらの形でその触媒になっているというか、許容しているところがあるからだと思います。あるいは、先生の方が生徒よりも自由であるが故に、そうなっているのかなと。

芳賀先生:そうですね、私が赴任してきた時からこんな感じでしたから、草創期の教員が努力したのでしょうね。戦時中のような教育を否定してのびのびやらせようということで。

立花:確か早い段階から男女共学になった学校でもありますね。もともと福澤諭吉先生が男女平等と言っていますし。それから、先生が生徒をすごく信用してくれているからこそ自由にできるのだと思います。

編集部:慶應義塾の中学校はこの学校の他に慶應義塾普通部、慶應義塾湘南藤沢中等部と、合わせて三つありますよね。他にはない中等部の特徴というものは何かありますか?

芳賀先生:個人的には結構違いがあると思っていたのですけれども、「どの学校も雰囲気が似ていますね。」と言われることが多いです。やはりどの学校も同じで、自由な校風のようですね。

立花:生徒の仲が良いというのが一番大きな特徴かと思います。他の二校も仲が良いとは思いますが、同窓会活動は中等部が一番盛んです。

芳賀先生:そういうところだと思いますね。

編集部:そもそもこの学校は校則がありませんよね。

芳賀先生:ないですね。ですから、時折「校則なんてどこにも書いていないじゃないか。」と言われるとドキっとします。「校則はないけどやってください。」という話なのですけれども。

立花:これから5年後、学校の雰囲気は変わっていると思いますか?

芳賀先生:あまり変わらないのではないかな。もちろん、変えたいと思っている方はいると思います。自由の裏側には必ず怠惰がついて回るので。「もう少しちゃんとしなさいよ。」と教員側が思っているところはありますから、そこは少しずつ変わっていくのかな。それでも自由な人は本当に自由ですから、劇的に変わることはないでしょうね。

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